前回,前々回と,松下電器温風機リコール事件で,個人情報保護のために過去の顧客名簿を処分したことが裏目に出たことを取り上げてきた。この事件では,その後も既存顧客を把握しきれない状況が続いている。今回は,緊急時に顧客と連絡を取ることの大変さについて検証してみたい。
100億円以上の緊急対策費用が示す顧客データ処分の代償
松下電器産業は2005年12月6日,「FF式石油温風機及び石油フラットラジアントヒーター安全確保のための『緊急対策の実施』について」を発表した。所有者が希望すればリコール対象商品を1台5万円で買い取るほか,新聞広告・テレビCMなどマスコミを通じた告知活動,6万店のガソリンスタンド・灯油販売店を対象としたローラー作戦,グループ社員による告知チラシ配布など,さまざまな緊急対策を年末にかけて実施してきた。緊急対策発表の時点で,対策費用総額は100億円を超える見通しであることが報道されている。
同社が12月28日に行った発表(「FF式石油温風機及び石油フラットラジアントヒーターに係る回収又は点検及び改修の進捗状況のご報告(12月27日時点)」)によると,リコール対象機種の出荷台数15万2132台に対する12月27日時点の名簿把握台数は,8万9738台(59.0%)にとどまっている。11月29日時点の名簿把握台数である5万8754台(38.6%)よりは増えているが,残りの6万2394台(41.0%)については,所在すらつかめない状態だ。
緊急対策発表時点での対策費用総額である100億円を,11月29日から12月27日までの間に把握できた3万984台で単純に割ると,1台当たり約32万円となる。いつか役に立つと系列販売店経由の顧客データ3600万件を蓄積していた松下電器だが,2005年に個人情報保護法が施行されると顧客データを600万件にまで減らした。このとき処分したデータの中に温風機の顧客情報が含まれていた可能性が高いというから,その代償は大きい。問題が長期化すれば,松下電器の供給・販売網に関わる部品メーカー,販売会社などの中堅中小企業(SMB)に及ぶインパクトも大きくなるだろう。
SMBにもできる転ばぬ先の顧客情報管理
緊急時に顧客と連絡を取ろうとして苦労する事態は,松下電器に限ったことではない。例えば,「個人情報漏えい事件を斬る(20):「価格.com」とは対照的なワコールの情報漏えいへの対応」で取り上げたワコールである。ワコールではこのとき,個人データが流出した顧客との連絡状態を把握するために配達記録郵便で詫び状を発送したが,不在等の理由で送達できないものがあり,通常郵便で再発送している。また,携帯電話のメール・アドレスだけを登録している顧客にはメールを使わず,書面を利用している。携帯電話へ一斉メールを送信すると,携帯電話会社の迷惑メール防止システムでメールが廃棄されてしまい,連絡がつかなくなる可能性があるためだ(ワコール「お客様情報の流出に関するお詫びとご説明」参照)。
松下電器は1月12日,全国全ての世帯と宿泊施設約6000万ヵ所に,回収対象の温風機や危険性を知らせるはがきを送付する計画を明らかにした。中堅中小企業(SMB)には考えられないような規模の対策費用になっているが,あらかじめ個人情報の利用目的に緊急時の情報提供を組み込んだり,顧客にメール・ニュースやダイレクト・メールを送付する際に登録情報の確認・更新を促したりしていれば,ここまで苦労することはなかっただろう。金がなくても,社員の知恵と経営者の決断力があれば,SMBにもできる顧客情報管理対策は結構あるのだ。
次回は,松下電器の事件を含め,個人情報保護法施行後に発生した事件を受けて変わりつつある所管省庁の動向について考えてみたい。
■笹原 英司 (ささはら えいじ)
【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業、公共部門まで、国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。
【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/
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