モバイルデータ通信では現状、ノートパソコンにデータ通信専用端末を挿して使う形態が最も多い。ただ今回の調査では、新たに登場したiPhoneや、Android端末などスマートフォンの導入意向が高まっている。
スマートフォンに注目が集まる大きな理由は、ノートパソコンに比べて起動時間が短く、持ち運びも容易だからだ。2009年10月にNTTドコモのBlackBerry Boldを70台導入した金属加工メーカーA社のシステム担当者は、「メールを読むためだけにノートパソコンを持ち運ぶのが面倒という社内ユーザーが多かった」と、導入の背景を説明する。
導入例では多目的には使われていない
モバイル端末の種類別に用途を見ると、データ通信専用端末を導入した企業は、メール以外にもグループウエアや、ファイルサーバーへのアクセスなど多くの目的に使っている。これはノートパソコンと併用することが前提だからだ(図1)。
これに対してスマートフォンの用途は、携帯電話機を使ったデータ通信の用途と近い結果になった。回答数が10社と少なかったことの影響があるかもしれないが、現状では、メール専用など単機能の端末として導入している例が多い。
理由の一つは、アプリケーションに改修が必要になるケースがあること。Webベースの社内システムを使う場合でも、スマートフォン搭載のブラウザーからうまく操作できないことがあるのだ。ウェッズの星野課長代理は、「個人的に使っているiPhoneで社内システムが使えるかどうかテストしてみた。しかし、レイアウトが崩れて入力しづらかった。現状ではWebアプリを作り直す必要があり、コストが見合わない」と指摘する。
これに対して前述の金属加工メーカーA社では、逆にスマートフォンを「携帯電話機よりも管理しやすい単機能端末」と割り切って導入した。「それまではモバイル端末としてノートパソコンしか認めていなかった。それを不便に感じるユーザーが、勝手に個人の携帯電話にメールを転送してしまう例が散見され、セキュリティ上問題が生じていた」
そこで、別のソリューションとしてスマートフォンを導入することで、そうした問題を解決できると判断した。BlackBerry Boldの場合、サーバー側のリモートワイプ機能を使えば、受信したメールを遠隔操作で消去できる。「紛失や置き忘れといったリスク対策はノートパソコンよりも導入しやすい」と話す。
ただしスマートフォンは現状、端末メーカーによって一括管理の仕組みや、管理できる機能が異なり、まだ管理手法が確立しているとは言い切れない。様々な管理ツールが利用できるノートパソコンに取って代わるほどのペースで普及していくかは未知数だ。
新規導入が伸びているモバイル通話定額
別の側面からスマートフォンに対して寄せられている期待が、社内の音声端末としての可能性である。スマートフォンに関する自由意見を見ると「データを持ち運ばずに済むクライアント端末としてだけでなく、社内のPHSに代わる内線端末としても使いたい」「海外出張時にノートパソコンと社内電話の両方の役割をこなす端末として使えないか」といった意見が見られる。
こうしたユーザーの思いは、社内で使う電話サービスとしてモバイル通話定額の利用率が伸びていることからうかがえる。電話サービス全体を見ると、半数以上の企業がまだ加入電話と携帯電話の標準サービスを利用している(図2)。ただ、その次につける選択肢グループの中に、携帯電話同士の通話料を定額とするモバイル通話定額が入ってきた。
さらに、新規に導入した電話サービスの推移を見ると、モバイル通話定額の割合は年々伸びている(図3)。
単にノートパソコンより便利な端末というだけでは、スマートフォンの導入に踏み切る理由としては弱い。ただ、通話料金の見直し、端末の統合といった、コスト削減と管理負荷の軽減という利点がもっと明確になれば、導入意向はさらに高まるはずだ。