コンピュータ資産を持たずに、システムをサービスとして利用できるクラウドコンピューティングは、「これから使いたい」と考えているユーザーが28.5%と期待が高まっている(図1)。さらに「既に使っている/使う予定がある」という企業は16.6%。全体に占める割合はまだ低いが、昨年の回答(6.3%)から見れば、導入企業の割合は2倍以上に膨らんだ。

図1●クラウドコンピューティングの利用状況
図1●クラウドコンピューティングの利用状況
利用中/予定の企業は全体の16.6%と大きなボリュームになってきた。ASPを含めたSaaSの利用がほとんどで、国内事業者のサービスを利用する企業が大半。
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 首都圏を中心に多国籍レストランやカフェを運営しているグローバルダイニングでは、この数年の予算削減で、情報システム専任のスタッフが6人から4人に減少した。このため、「すべてのシステムを自前で構築すれば、運用負荷がキャパシティーを超えてしまう。クラウド型のサービスを使う以外に選択肢はない」(吹上哲也・情報システム室長)と判断した。同社は、メール、グループウエア、Web会議システムなどのほか、食材発注など業務の一部にもASP型サービスを活用している。

図2●クラウドの導入目的の内訳
図2●クラウドの導入目的の内訳
社内向けシステムのリプレースが6割超となった。Webホスティングのクラウド型サービスなど社外向けシステムの採用例は新規構築とリプレースを合わせても25.0%と社内向けリプレースの半分以下にとどまった。
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 クラウドサービスの全体のシェアを見ると、国内事業者のSaaS/ASPが57.1%と群を抜いている。2位は、国内で提供されている、VPN回線などを経由したプライベートクラウドサービス。3位はGoogleAppEngineだった。国内の事業者のサービスであることや、既に大規模ユーザーが利用していることへの安心感が影響しているとみていいだろう。

 用途では、メールやグループウエアなど情報系システムを中心とした社内システムのリプレースが最も多い(63.6%)。それに比べ仮想リソースプールを貸し出すホスティングはクラウドの代名詞だが利用実績は低い(図2)。

システム規模でコスト評価が変わる

図3●クラウドを導入していないユーザーの評価
図3●クラウドを導入していないユーザーの評価
既存システムを置き換えてまで切り替えても月々の料金が、システムの保有コストを上回るという判断から導入を見送ったという意見が目立った。
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 一方、クラウドを利用するつもりはないというユーザーも、全体の25.6%と少なくない。利用しない最大の理由は、「ランニングコストとして支払い続ける料金水準がまだ高い」というもの。逆に、セキュリティやスループットなどネットワーク越しに外部のシステムを使うことに対する不安は比較的、低位だった(図3)。

 導入済み企業が、ランニングコストをどう評価しているかについて尋ねると、システムの規模や管理体制によって評価基準が違うことが分かった。

 例えばグローバルダイニングでは、「300アカウント前後で使うシステムを目的ごとに構築し、都内のサーバーラックを借りれば、すぐに数十万円もの料金がかかる。システムの種類にもよるが、ASPやSaaSのほうが安くつく場合が多い」と計算している。

 ある程度専任スタッフを確保できる大企業の場合は、システムの初期導入費用を省けるメリットが大きい。世界14カ国に関係会社を持つ衛生用品メーカー大手のユニ・チャームでは、国ごとに運用していたメール・サーバーの統合にかかる費用と、クラウドの導入費用を比べてクラウドを選んだ。自社で構築するよりも、システム導入時の初期費用が安く済むことが魅力だった。

 同社が選んだのはGoogleApps。2009年にGoogleAppsのGmailとカレンダーを導入し、メールアドレスや利用環境を統合した。導入にあたって、社内システムとのID連携や、ログイン履歴などを収集できる認証ゲートウエイを外部のインテグレータからASP形式で導入した。「開発費を含め数千万円の初期費用がかかったが、自社でサーバー統合をしていたら数億円かかる計算だった」(情報システム部の二神幸平氏)。現在、国内と海外を合わせて約4300アカウントを利用中で、順次海外拠点全体に展開していく計画だ。「Gmailであれば多言語に対応しているので、海外拠点でも同じ環境で利用できる」(二神氏)

 海外拠点も含めてクラウドを導入する場合、利用環境の差が障壁になるケースもある。生産・販売拠点の大半を海外に置くマブチモーターでは、「アジアを中心に導入を検討したが、中国では、Googleのサービスが制限されるリスクがあるため採用を断念した」(平岡義淳情報システム室副主任)という。

クラウド活用に関するユーザーの声
クラウド活用に関するユーザーの声