クラウドコンピューティング、サーバー仮想化、スマートフォン、そしてiPadのようなタブレット端末など、新たな仕組みの採用に動く企業の姿が目立ち始めている。どの企業も、景気停滞や金融危機を経て、ギリギリまでICT関連コストを削ってきた。次に必要なのは、会社と情報システムをしっかりと支える、いわば“筋肉質”な土台作り。そのためにネットワークの強化に取り組んでいる。

図1●コスト削減だけでなく利用環境の最適化にも焦点
図1●コスト削減だけでなく利用環境の最適化にも焦点
2009年の経済危機対応でコスト削減が進んだ。2010年はそれを受けて、いかに従来以上にICT環境の利便性を高めるかに焦点が当たるようになってきた。
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 日経コミュニケーションが2010年7~8月に実施した「企業ネット/ICT利活用実態調査」では、予算を大幅には増やせない中で、より業務効率や利便性の向上につながる環境を作ろうとしている企業の姿が浮き彫りになった(図1)。

 特にクラウドコンピューティングは、話題先行に見られがちだが、既に半数近くの企業が関心を持ち、導入を検討している。いち早く利点を評価し、導入した企業からは、「設定やメンテナンスが容易で、日常の運用・管理を省力化できることに満足している」という声が上がる。

 一方、業務効率アップなどに向け、コミュニケーション環境の充実を目指す企業もある。顕著な動きが見られるのがテレビ会議システムの導入。導入率は55.1%で、過半数に達した。当初は出張旅費の削減を主目的とする企業が多いが、社員の移動を減らせば交通費が浮くだけでなく、時間も生み出せる。その時間を使って、より密なコミュニケーションを取れるようになる。「実際に使ってみると会議以外にも使い道のあるツール」と評価する企業もある。まだ導入率こそ高くないが、業務効率アップのためにスマートフォンなどの新デバイスを取り込む動きも顕著になってきた。

仮想化、モバイルなど新規投資が上昇

 これらの変化は、システム担当者が過去1年間に見直したICT関連投資内容のランキングからうかがえる(図2)。2009年の調査では設備投資の要らない「電話サービスの見直し」が47.1%とダントツだったが、2010年はそれを抑え「テレビ会議システムの導入」という投資案件が1位に浮上した。

図2●「過去1年間に見直した投資対象」では上位の項目に変動
図2●「過去1年間に見直した投資対象」では上位の項目に変動
見直したと回答した企業は全体の35.3%(254社)。電話サービスの見直しなど投資の要らないコスト削減策より、投資が必要な項目が上位に上がってきた。
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図3●ネットワーク関連投資にも薄日が差し始めた
図3●ネットワーク関連投資にも薄日が差し始めた
25%未満と小規模だが増額した企業が増え、50%以上の減額という大幅縮小の企業は減った。
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 また、仮想化によるサーバー台数の削減や、モバイル通信環境の整備もランクアップした。業務効率やTCO(総所有コスト)の改善につながる投資は確実に増えている。2010年のネットワーク関連予算を見ると、昨年とほぼ同額とする回答が58.8%と最多数を占めたものの、全体では投資は増えている(図3)。昨年より予算を増やしたというユーザーの合計は17.1%で、減らしたユーザーの合計16.4%を上回った。

ネットワークは信頼性重視に変化

 これに伴い、ネットワーク回線を見直す動きも加速しそうである。業務を継続するうえで不可欠なインフラという認識が今まで以上に強まり、速度よりも信頼性を求める声が増えてきた。

 ネットワーク関連コストを極力抑えなければならないという厳しい状況に変わりはない。ネットワークの見直しで最重視しているのは、やはり通信コストである(図4)。ただ、それ以外の項目には変化があった。主要拠点を結ぶ幹線系、中小拠点を束ねる支線系の双方で、回線の高速性よりも信頼性を重視する傾向が強まった。

図4●WAN回線の見直しをする理由
図4●WAN回線の見直しをする理由
上位から五つの理由を抜き出した。
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 象徴的なのが、「企業向けバースト型通信サービス」に対するユーザーの関心度である。ぜひ使いたい/使ってみたいと答えたユーザーが45.2%と半数近くに増えた。バースト型通信サービスは、簡単に言うと、イーサネット専用線で接続したIP-VPN/広域イーサネット網。FTTHなどベストエフォート回線に近い料金で利用できる。この質問の昨年の結果は23.9%であり、ユーザーが安さだけでなく品質を伴うサービスを求める傾向にあることを裏付けている。

調査概要
[調査名]日経コミュニケーション 「クラウドはもはや当たり前!企業ネット/ICT利活用実態調査」
[調査対象]上場企業に勤務する情報システム/通信・ネットワーク担当者。東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、ジャズダック、マザーズ、ヘラクレスから3200社を抽出した
[調査方法]アンケート票を郵送。回答は郵送とWebサイトで受け付け
[調査期間]2010年7月7日~8月6日
[回収状況]有効回収719社(うち郵送回収560社、Webサイト回答159社)、回収率22.5%
[回答企業の業種内訳]建設業7.0%、製造業43.9%、卸売業・小売業20.6%、運輸・物流業3.6%、情報・通信業4.7%、サービス業12.2%、金融業1.4%、その他6.5%
[回答企業の2009年度売上高]100億円未満27.7%、100億~500億円未満42.2%、500億~1000億円未満11.1%、1000億円以上17.6%、売上なし0.4%、無回答1.1%
[回答企業の2009年度末従業員数]99人以下8.6%、100~299人22.4%、300~999人37.6%、1000人以上30.9%、無回答0.3%
[調査の実施および集計]日経BPコンサルティング