「じっくりとシステムを企画・開発するよりも、素早く導入することを重視する」「コモディティー化した製品・サービスの価格は厳しく吟味する」。

 リーマン・ショック後のIT予算抑制が常態化したことに加え、クラウドコンピューティングの台頭が、ITバリューの変革をユーザー企業に迫っている。

 システム利活用は「1秒でも早く」「1円でも安く」─。これからの時代のITバリュー像を一言で表すとこうなる。

 こうした変革の兆しを感じとる手掛かりとなったのは、今回の調査における「重視度」の変化だ。

 重視度とは、回答企業・団体が分野ごとに「特に重視している項目」として挙げた割合のこと。重視度が50点の評価項目は、回答者の50%が選択したことを示す。

図1●サービス分野における重視度の変化
図1●サービス分野における重視度の変化
前回調査(2009年)の重視度を1として、今回の重視度の変化率を算出
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 まずは、図1を見てほしい。ITコンサルティング/上流設計関連サービスとシステム開発関連サービス分野における重視度の変化を示すグラフである。前回調査の重視度を1として、今回の重視度の変化率を算出したものだ。ここから読み取れるのは、「システム作り」に対する関心の低下だ。

 今回はITコンサルティング/上流設計関連サービス分野で、「プロジェクトマネジメント力」の重視度が、前回より20.6%も下落した。さらに「業務分析力」も7.2%下がってしまった。

 システム開発関連サービス分野でも、「プロジェクトマネジメント力」の重視度が前回より10.2%下がった。「開発力」は1.5%の微減で済んだものの、「最新技術への対応力」は4.8%下がった。

 その一方で、「コンサルタントの品質、体制」や「予算の順守度」、「提案力」の重視度は、前回調査よりも上昇した。

 じっくりと腰を据えてシステムを「作ること」に対する価値が低下したとしか思えない。IT予算の削減でシステムの企画・開発案件が減っていることだけでは、プロジェクトマネジメント力などの劇的な低下は説明しにくい。

 「この10年間で必要なシステムは一通り整備した。クラウド時代を間近に控え、システム部門の関心は“作る”から“生かす”に変わりつつある」。大手製造業のシステム部長は指摘する。

 今年1月に情報共有用のクラウドサービスを導入した流通業のシステム部長も同意見だ。「じっくりシステムを作るスタイルそのものが、システム部門のリスクになってきた」と強調する。

 こうなると「プロジェクトマネジメント力」や「業務分析力」をはじめとするシステムの企画・開発能力は、勢い重要視されなくなる。クラウドに代表されるよう、素早く効果を実感できるソリューションにユーザー企業の関心が移ってきているのは明白だ。

 NECソフトの森川直昭生産改革室長は「プロジェクトマネジメント力や業務分析力の重要性が低下したのではなく、備えていて当たり前のスキルになったのではないか」と分析する。だが、「やるべきことを“しっかりやります”程度では、他社との違いを出せなくなっている」とも認める。