今回のアンケート結果からは,約3割のユーザー企業が「NTTは1社体制が望ましい」と考えていることが分かった。しかし一方で,半数以上がNTT東西のFTTHシェアは「高すぎる」としている。この結果をどう読み解けば良いのか。DDIやイー・アクセス/イー・モバイルなど通信事業者での勤務経験を持つ国立情報学研究所・庄司勇木氏に解説してもらった。

(日経コミュニケーション編集部)


庄司 勇木/国立情報学研究所 庄司 勇木/国立情報学研究所

 今回のアンケート結果から,ユーザーは分断されたNTT東西のサービスが使いにくいことと,事業者間競争が進んでいないことの大きく二つの不満を持っていることが分かった。しかしこれらの不満は,NTTが1社体制へ回帰すれば解決されるのだろうか。

別会社でもワンストップはできる

 東西が分断されていて使いにくいとの不満を持っているユーザーの割合は7割と非常に高い(第1回記事の図1)。しかし問題は東西が分断されていることではなく,東西間の連携が欠如していることにある。ワンストップ・サービス提供のために異なる会社間で連携を取る例は少なくない。会社が分断されているからといって,それが連携の欠如の理由にはならない。

 しかもNTT東西はもともと同じ会社であり人事交流もある。現場同士の距離は近いはずだ。にもかかわらずうまく連携が取れていないのは,NTTがユーザー本位の経営をする組織形態になっていないからであり,東西を持ち株会社が統合するという組織構造の複雑さに起因するのではないか。

 市場の競争状況に対する不満に関しては,半数近くのユーザー企業が「あまり競争が進んでいない」と回答している(第3回記事の図1)。実はこれは,ユーザーがNTT以外の事業者のサービスが競争的でなくなってきていると感じていることの表れとも言える。

 通信市場は成熟し,市場も3事業者グループへの収れんが進んだ。NTT以外の事業者には,革新的なサービスへの投資を行うよりは既存ユーザーの囲い込みによる利益の確保を優先する傾向が出てきている。このため,3グループ間の競争を促進するだけでは不十分だ。新規事業者が市場に参入しやすいよう,環境を整備する必要がある。

3グループすべての網をオープン化

 では,ユーザーが持つ不満を解消するにはどうすればいいのか。筆者は以下のように考える。

 まず,NTTの経営体質をユーザー本位に変える組織改革が必要である。現在の持ち株会社制ではユーザー本位のサービス提供を志向する子会社の経営姿勢を歪める可能性が高いため,廃止してフラットな組織に再編すべきだ。加えて,競争上のボトルネックを解消するためにアクセス回線部分を分離して他事業者にも平等に開放する。

 アクセス分離の手法や具体的な組織形態については様々な議論があるが,重要なのは現場の声が素早く経営に反映されるような意思決定の速い組織にすることである。そうでなければ,グローバルな競争に取り残されてしまう。

 また,新規参入を活発化させるために,VNO(仮想通信事業者)へのオープン化をNTTだけでなく3事業者グループすべてに対して義務付けるべきだ。そうすることで,様々な強みを持つ事業者の新規参入を促進できる。

企業ユーザーはもっと声を上げよ

 NTT組織問題を含んだ日本の通信産業の将来像についての議論がICTタスクフォースで始まった。議論の先行きは現時点では全く読めないが,結論によってはサービスを利用する企業ユーザーが大きな影響を被ることになる。ユーザーもパブリック・コメントなどを利用し,現状の不満や組織改革についてもっと積極的に発言していくべきであろう。

庄司 勇木(しょうじ ゆうき)
国立情報学研究所
1988年4月,DDI(現KDDI)に入社。タイタス・コミュニケーションズを経て99年10月から2008年5月までイー・アクセス/イー・モバイル専務執行役員。現在,国立情報学研究所勤務。