企業がモバイルを活用するうえで,今後どのようなモバイル・ソリューションに投資をしていくのか。それを探るために日経BPコンサルティングは,携帯電話/PHSの法人利用の実態と今後3年間の企業の導入計画,さらには経年での比較も含めた法人利用・ニーズの変化に焦点を当てた「携帯電話“法人利用”実態調査2010」を2009年11月に実施した。2005年から毎年実施している同調査も,今回で第5回を迎えた。今回の調査で顕著に分かったことは,企業の投資注力先がクラウド・コンピューティングへとシフトしてきたことだ。

2010年,クラウドに対する企業の投資伸び率は前年比で1.5倍に

 クラウド・コンピューティングに対する企業の投資意欲は高い(図1)。アンケート調査では,18分野の投資注力度を調べた。その結果,2010年の投資注力度(対2009年)が最も高かったのは昨年と同様にモバイル・セキュリティ(スコア1.421)で,クラウド・コンピューティング(スコア1.235)が第2位だった。ただし,2009年の投資注力度(対2008年)に対する2010年の投資注力度(対2009年)の伸び率では,クラウド・コンピューティングの方がモバイル・セキュリティよりも大きい。モバイル・セキュリティが1.2倍であるのに対して,クラウドは1.5倍だった。

図1●モバイル・ソリューションに関する投資の注力度
図1●モバイル・ソリューションに関する投資の注力度
2010年でモバイル・ソリューションの投資注力度は,全体的に拡大方向(青い斜線よりも上)にある。より右上の項目が投資の大きい項目で,「モバイル・セキュリティ」「クラウド・コンピューティング」「SaaS」「無線LAN」に対する大きな投資が見込める。
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 2010年でモバイル・ソリューションの投資注力度は,全体的に拡大方向(図1で青い斜線よりも上にプロット)にある。2008年,2009年と不況の影響で,企業内の支出を抑える傾向が強かったことから,全体的に投資が少なかったこともあり,景気回復の方向となれば2010年は投資拡大になっていく。

 2009年の投資の注力度(指数)は,対2008年において,「モバイル・セキュリティ」だけが投資拡大で,他の項目はすべて2008年よりも縮小していた。2010年になると,2009年よりも投資拡大が予想できる項目が5項目となり,また投資拡大幅をみても全ての項目がプラスとなっており,全体的にモバイル・ソリューションへの投資拡大が期待できそうである(表1)。

表1●
表1●2009年に対して2010年の投資注力度が大きいのはクラウド
投資注力度第1位は「モバイル・セキュリティ」。しかし投資の拡大が大きく見込めるのは「クラウド・コンピューティング」と「SaaS」。対2009年の2010年投資伸び率は約1.5倍(表中の赤字部分)。クラウド・コンピューティングに対する企業の期待が大きいことが分かる。
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 この中で1番の注目は「クラウド・コンピューティング」と「SaaS(software as a service)」である。「SaaS」はクラウド・コンピューティングに包含される項目ではあるが,対前年比における投資拡大幅は,2009年から2010年に向け0.4ポイント以上となっている。2010年に注目されるソリューション形態といえる。今回,初めて加えた「クラウド・コンピューティング」の項目が2位,また「SaaS」が前回調査の11位から3位と大きくアップしたことで,他の項目のランクがダウンしている形となっている。

 「無線LAN」と「データ端末」も,WiMAXのエリア拡大や,WiMAXと第3世代携帯電話(3G)のハイブリット,LTE(long term evolution)などデータ通信の高速化の環境がさらに進むことから,投資が加速すると考えられる。データ通信関連への投資は2010年注目の分野となることが期待できる。

LTEでモバイル・クラウドが加速

 今後,クラウド・コンピューティングはモバイル環境からの利用,いわゆる“モバイル・クラウド”が当たり前になると推測する。これを後押しするのが,現在の3Gよりも1ケタ高速のデータ通信サービスであるLTEの登場だ。LTEでは下り100Mビット/秒以上,上り50Mビット/秒以上を実現できる。

 2010年末にNTTドコモがLTEを開始するほか,2011年夏にはソフトバンクも追随し,2012年末までにKDDIもLTEサービスを開始する予定だ。LTEの特徴は,伝送速度が速くなるのはもちろんのこと,伝送遅延,接続遅延も改善(遅延時間は5ミリ秒以下)されるため,リアルタイムの映像の双方向通信も可能になる。利用者の感覚的満足度が大幅にアップすると推測される。具体的にはLTEにより,(1)高品質・高解像度の映像サービス,(2)“リアル・インタラクティブ”なサービス,(3)シン・クライアント型サービス---などが期待されている。

 これらのサービスが,“モバイル・クラウド”という形で提供されていくようになるだろう。特に注目したいのは,高品質・高解像度の映像サービスだ。今回の調査で映像系のサービスでは,土木・建築の現場写真を管理するような進捗管理システム,テレビ電話・会議システム,さらに定点カメラによる遠隔監視/動態管理に対するニーズが高かった。

 次回からは,調査結果に基づき,(1)モバイル用途として注目のクラウド・サービス,(2)モバイル・データ通信で利用する業務システム/アプリ,(3)データ通信の高速化がニーズが高まる「映像・画像」について順番に見ていく。


調査概要
調査名携帯電話“法人利用”実態調査2010
調査内容:携帯電話/PHSの法人利用の実態と,今後3年間の企業の導入計画,さらに経年での比較を含めた法人利用・ニーズの変化を分析。音声通信とデータ通信の両面で調査した。全38問
調査対象:[郵送調査]帝国データバンクの企業データベースに基づく上場企業と非上場の優良企業,合計5000社/[ヒアリング調査]通信事業者5社(NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイル,イー・モバイル,ウィルコム)
調査方法:ヒアリング調査と郵送調査
調査期間:2009年10月26日~12月10日
郵送調査回収数:679社
調査の実施および集計日経BPコンサルティング