今回の「SaaS/ASP利用実態調査 2009-2010」では,SaaS/ASPを現在使用しているとした339件の回答者にまず「最も重要なSaaS/ASPを使っている分野」について,導入規模やコスト,導入前後で感じたメリットやデメリットなどを聞いた。さらに「複数のSaaS/ASPを使用している」かを問い,複数使用しているとした回答者には,「2番目に重要なSaaS/ASPを使っている分野」について同じ設問を提示して回答を求めた。

 「使用しているSaaS/ASPのうち最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の回答を合算した412件の利用例を分野別に見ると,「社内・グループ間情報共有」の17.5%,「メール配信」の11.9%に次いで,「業界特化型」と「セキュリティ」が9.7%を占め,「使用中のSaaS/ASPの分野」(連載第1回を参照)では3番目に高率の「Webサイト・携帯サイト構築」(7.5%)を上回った(図-3)。「Officeソフト」のSaaS/ASPサービスについては,「使用中のSaaS/ASPの分野」には挙がったものの,重要分野として挙げた回答者は今回の調査では「最重要」と「2番目に重要」ともにゼロ件だった。

図-3●SaaS/ASPサービスを使用している重要分野(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算)(n=412,無回答を含む)
図-3●SaaS/ASPサービスを使用している重要分野(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算)(n=412,無回答を含む)

 重要用途のSaaS/ASP利用事例412件について,その「使用開始時期」を聞いたところ,「2006年3月以前」が約3割,「2007年4月以後」が約半数。中でも「2008年4月以後」,つまり調査時期から約1年以内という比率が35%強を占めた(図-4)。前回2008年8月の調査では約半数(46.7%)の回答者の使用開始時期が「2006年3月以前」で,「2007年4月以後」の比率は31.0%だったので,約1年で逆転した形である。

図-4●利用者規模,地域別のSaaS/ASPサービス使用開始時期(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)
図-4●利用者規模,地域別のSaaS/ASPサービス使用開始時期(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)

地方・小規模ユーザーの導入が2009年春以後増えた

 「重要用途のSaaS/ASPの使用開始時期」を回答者の属性とのクロス集計で見ると(図-4),担当している「システムの規模が小さい」(利用者規模500人未満)回答者グループや,勤務先の所在地(全社システム担当者は本社の所在地,その他は担当システムが使用される事業所や部門の所在地)が「関東・東京以外」の回答者グループで,「2009年4月以後」つまり調査時点から4カ月以内という直近にSaaS/ASPサービスを使い始めた比率がやや高かった。

 この「小規模」と「関東・東京以外」の回答者グループは,「2006年3月以前」からSaaS/ASPサービスを使用している,という比率もやや高い。小規模,地方のユーザーはSaaSブーム以前のASPサービスをある程度受け入れた後,ここ数年のSaaSブーム期はやや様子を見ていたが,2009年春から導入に動き始めた,と見ることができよう。

「今年度中に導入予定」の比率が高いのは業界特化型やCRM,SFA

 「SaaS/ASPを使っていないが,使う予定が具体的にある」または「使っていないが今後検討する可能性がある」,つまりまだSaaS/ASPを使用していない導入予備軍の回答者には,各導入予定分野のSaaS/ASPをどの時期から使う計画かを聞いた(図-5)。図のnから分かるように,導入予備軍の回答者数が最も多かった分野は「社内・グループ間情報共有」。やや離れた2位が「Officeソフト」,「SFA・営業支援」の順だ。

図-5●SaaS/ASPサービスの利用予定者の使用開始時期の計画 (利用予定分野別,無回答を含む)
図-5●SaaS/ASPサービスの利用予定者の使用開始時期の計画 (利用予定分野別,無回答を含む)
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 導入予定時期は,どの分野でも7~8割の回答者が「未定」としたものの,「業界特化型」や「CRM」,「SFA・営業支援」で「2010年3月まで」つまり今2009年度に使い始めるとした比率が高かった。「2010年3月まで」「2011年3月まで」「2012年3月まで」の三つの選択肢の合計では,比率で見た上位は「人事・給与」19.5%,「社内・グループ間情報共有」19.1%,「生産・販売・仕入・物流」17.5%。回答者数を乗じて導入予定者の絶対数で見ると,「社内・グループ間情報共有」分野が2位「SFA・営業支援」以下の約1.6倍と突出して多かった。


※調査概要
 日経BPコンサルティングの調査モニターのうち,「所属する企業・組織で自社あるいは自部門の情報システムにかかわる仕事を担当している」とした回答者を対象に,SaaS/ASP利用の現状と計画,利用開始時期やコスト,利用開始前と開始後の期待効果と不安要因,不満点,利用開始予定時期や予定分野,期待する効果やコスト削減率などを聞いた。
 調査時期は2009年8月3日~8月20日。全回収数(1896件)のうち,SaaS/ASPを使用していると回答した339件,および使用を計画,検討,試用していると回答した359件の合計698件を有効回答とした。有効回答者の所属業種は製造業が33.8%,流通業が11.7%,サービス業(金融関連,情報処理を除く)が14.5%,政府・自治体・公共が9.2%,金融/証券/保険業が5.6%など。有効回答者の担当システムの範囲(複数回答)は全社情報システムへの関与者が83.5%,部門情報システムへの関与者が31.5%,事業所の情報システムへの関与者が28.7%,ワークグループの情報システムへの関与者が15.3%。
※参考文献
本記事は、日経マーケット・アクセスが2009年9月30日に発行した『SaaS/ASP利用実態調査2009-2010』を参考に執筆しました。詳細はこちらをご覧ください。