クラウド・コンピューティング
4割がクラウド導入に意欲 コスト削減効果に期待

 ユーザー企業が自社内のサーバーの集約・統合でコスト削減を目指す一方で,外部のベンダーが提供するサービスやインフラを使うことで管理のコストや手間を削減しようとする動きも目立ち始めた。クラウド・サービスを活用しようというのである。実際のところ,クラウドを「既に使っている」と回答した企業は6.3%とまだ少なかった(図1左)。それでも今後使いたいと回答している比率は34.2%に達した。

図1●クラウド・コンピューティング導入の傾向<br>「既に使っている」という回答は6.3%とまだ低いが,「使いたい」という比率は3割を超える。「既に使っている」,「使いたい」という企業の中では,業務アプリやグループウエアなどのSaaSやASPを導入している/したいという回答が大半を占める。
図1●クラウド・コンピューティング導入の傾向
「既に使っている」という回答は6.3%とまだ低いが,「使いたい」という比率は3割を超える。「既に使っている」,「使いたい」という企業の中では,業務アプリやグループウエアなどのSaaSやASPを導入している/したいという回答が大半を占める。
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 クラウドの提供形態にはSaaS,PaaSHaaSと複数の種類がある。ユーザー企業が利用している,または利用したいと考えるサービスの種類を図7右図にまとめた。「Salesforce」に代表される業務向けアプリケーションや情報系アプリケーションのSaaSまたはASPを使いたいとする回答が6割を超え,他を圧倒している。PaaSやHaaSの各種サービスの中では,米グーグルの「Google App Engine」が30.5%と最も高い比率になった(図1右)。

 既にクラウドを採用した企業はどのように利用しているのか。システム・インテグレータの富士ソフトは2009年4月,Google Appsの利用を開始した。同社がGoogle Appsを採用した理由の一つが運用コストの抑制だった。「既存のメール・システムを強化して使い続けた場合,年間運用額は3億~4億円」(営業本部の間下浩之副本部長)になるが,Google Appsの年間利用料は1ユーザー当たり6300円。同社では1万人が利用するため,年間コストは6000万円強で済む。

外部サービス依存は不安という声も

 調査に寄せられたクラウドに対する意見を見ると,「コスト面のメリットを勘案すれば,クラウドへの移行は必然」という声がある。一方で,「セキュリティや信頼性が不安」という声も多い。実際,クラウド関連サービスを選択する際に重視したい項目を尋ねると,最も多い回答はコスト・パフォーマンスで82.4%。続いてセキュリティ,信頼性,安定性が70%以上となった(図2)。クラウド関連サービスに導入や運用料金の安さを期待する半面,セキュリティ,信頼性,安定性に関しては機能強化や保証を求めたいというユーザー企業の考えが現れている。

図2●クラウド・コンピューティング導入で重視したい項目
図2●クラウド・コンピューティング導入で重視したい項目
最も重視されているのがコスト・パフォーマンスで8割を超える。クラウド・コンピューティングが低コスト化の実現手段としてとらえられていることが分かる。

シン・クライアント
PCの管理コストを削減 導入のハードルも下がる

 シン・クライアントは従来はセキュリティ対策として導入されてきたが,パソコンのアップデートなど保守費用を削減する手段としてのニーズも根強い(図3左)。実際,シン・クライアントを導入済みの企業に理由を聞くと,セキュリティ対策のためという比率は63.8%と大半を占めるが,システム管理コストの抑制という理由も28.3%の企業が回答している(図3右)。

図3●シン・クライアント導入の割合と導入理由<br>導入している企業と導入予定・検討中の企業の比率は28.7%と4分の1を超える。導入理由はセキュリティの比率が高い。
図3●シン・クライアント導入の割合と導入理由
導入している企業と導入予定・検討中の企業の比率は28.7%と4分の1を超える。導入理由はセキュリティの比率が高い。
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 シン・クライアントを導入済みと回答した企業は10.9%で,2008年の8.6%よりも増加した。背景には,サーバーの低価格化や仮想化技術の進化によってシステム導入にかかるコスト面のハードルが下がってきたこと,パソコンをシン・クライアント化するUSBドングルなど専用端末を購入しなくても導入できる手段が登場してきたことが挙げられる。

 ヤマハ発動機はコスト削減を目的としてシン・クライアントの全面導入を進めている。同社はこれまで,パソコンの保守・管理にかかる費用に悩まされてきた。全社で利用しているパソコンは総数で1万台。ソフトウエアの一斉アップデートを実施する際には,必ずどこかの拠点でパソコンのOSのバージョンが古い,ディスク容量が足りないといった問題が生じ,システム部内の担当者を派遣していた。あるグループウエアのアップデートではすべての費用を集計すると億の単位に達したという。

 こうした状況を改善するため,今後同社では新規のパソコンの購入は原則禁止し,サーバー側で一括管理できるシン・クライアントの導入を進める。「シン・クライアント端末は低価格化が進み,今やパソコンよりも安い。サーバーも従来と比べて安くなった。仮想化技術で1枚のブレードに何十人ものユーザーを収容できるようになり,コスト削減につながっている」(プロセス・IT部 IT技術戦略グループ IT技術担当の和田秀昭主査)という。一定の導入費用はかかったが,2~3年後にはコスト削減効果が明確に現れると見ている。