WAN
企業の3分の1がWANの構成を見直し

 コスト削減策として,WANの見直しを実施した企業も多い。WANを別サービスに乗り換えたという比率は25.0%,WANを集約したが9.5%,WANの帯域を下げたが4.1%(前回を参照)。重複を除くと33.8%の企業が何らかの方法でWANを見直している。従来は,信頼性の高さから広域イーサネットやIP-VPNを利用する企業が多かったが,より低価格なエントリーVPNインターネットVPNに切り替える企業も増えている。今回の調査では,幹線系でのインターネットVPNの利用率は48.7%となり,IP-VPNを抑えてついにトップに躍り出た(図1左)。

図1●企業ユーザーの主な通信サービスの利用率推移<br>幹線系でのインターネットVPN,広域イーサネットの伸びが目立つ。
図1●企業ユーザーの主な通信サービスの利用率推移
幹線系でのインターネットVPN,広域イーサネットの伸びが目立つ。
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 化学製品製造のADEKAは,広域イーサネットで構築していた社内ネットワークを2008年10月に全面刷新した。情報系の網では,アクセス回線にBフレッツを使い,レイヤー2(L2)の閉域網で接続するVPNサービス(サービス名などは非公開)に切り替えた。「Bフレッツの料金は月額1万円程度だが,実効速度は30M~40Mビット/秒。広域イーサネットで同程度の帯域を確保するには数十万円かかる」(情報システム部ネットワークシステムグループの千葉哲グループリーダー)と,コストの差は歴然だった。本社など,さらに大きな帯域が必要な拠点では,数本のBフレッツを束ねて対処した。VoIP(voice over IP)用の回線では遅延の問題が少ない広域イーサネットを使っている。こちらの帯域は狭いが,情報系の網がダウンした場合のバックアップ回線として利用できる。全体のコストは従来とほぼ同じだが各拠点の帯域を大幅に向上できたという。

 自動車部品製造のミツバはエントリーVPNの導入で低コスト化と帯域増強を同時に実現した。国内7カ所の出張所の接続に広域イーサネットとIP-VPNを利用していたが,これをアクセス回線にBフレッツを使うエントリーVPNに切り替えた。1拠点当たり15万~20万円だった月額費用がエントリーVPNでは月額約3万円に収まった。「実効速度は上り下りとも15M~20Mビット/秒」(経営企画部 情報グループ インフラチームの高橋陽一氏)と,帯域も十分という。

 住宅販売の三井ホームは本社や支社,販売拠点,住宅展示場などを結ぶネットワークを,インターネットVPNに切り替えようとしている。移行に着手したのは2008年3月。2010年までに全国350以上の拠点の回線を切り替える。

 従来は,広域イーサネットとIP-VPNの両方を使って接続していた。一方がメイン,もう一方がバックアップ用である。アクセス回線は本社や支社が専用線,販売拠点や住宅展示場はBフレッツやフレッツ・ADSLである。

 インターネット接続に比べると,アクセス回線にBフレッツなどを使っても,IP-VPNや広域イーサネットでは接続料が割高になる。そこで,このコストを削減するために,インターネットVPNに移行することにした。しかも,インターネットVPNなら通信事業者や回線の種類に制限はないため,「電力系や地元ケーブルテレビ網などを含め,地域ごとに最適な回線を選択できる」(経営企画統括本部システムグループの高橋敏介チーフマネジャー)。こうすることで,通信コストを可能な限り削ろうとしている。

 レストラン経営のWDIは8月から全国50店舗をつなぐ回線をインターネットVPNからフレッツ・VPNワイドに切り替えた。従来は,各店舗に設置したルーターなど通信機器やVPNソフトウエアのメンテナンスに苦慮していたが,フレッツ・VPNワイドでは「回線の末端までがNTTの保守範囲であり,NTTにサポートや問題解決を一任できる」(BPR推進部の杉山弘高部長)メリットがある。突発的なトラブルに対応するためのメンテナンスの手間や人件費の削減が期待できるという。

電話
追加投資なくサービス見直しFMCで定額プラン導入

 電話サービスを見直したという企業数社に個別取材すると,「複数の事業者から見積もりを取り直して回線を入れ替えた」,「部門ごとにバラバラに契約していた携帯電話を社内で一本化してボリューム・ディスカウントを取った」,といった対策が多かった。事業者の乗り換えにより,多額の追加投資をせずに,手っ取り早くコスト削減を達成できるという。

 単に音声通話の料金値下げを狙うだけでなく,同時に業務効率化を実現した企業もある。水処理システムなどインフラ設備や産業機器の開発を手がける日立プラントテクノロジーは,携帯電話の“どこでも内線化”を実現するFMC(fixed mobile convergence)サービスを2009年8月に導入した。

 同社では,販売先の工場や各種の施設など現場に常駐する業務が多い。従来は,これら外部の社員に連絡を取るために,各部門ごとに契約した一般的な従量課金プランの携帯電話を使っていた。これを,社内のPBXにかかってきた電話を出先の携帯電話に転送できるようにした。

 FMCサービス導入に伴って携帯電話の契約は定額プランに移行。「社外に出ている社員が多く,携帯電話の利用頻度が高いため,定額プランはコスト削減効果が大きい」(情報システム本部の小野哲嗣本部長)。現在は段階的に一部拠点から導入を進めている。最終的には5000人以上の社員に対して展開していくという。