長引く経済停滞により,多くの企業がさらなるコスト削減を迫られている。ネットワーク構築・運用コストも例外ではない。固定的なランニング・コストに見える通信料金などは,格好のターゲットにされやすい。とはいえ,安直にコストを削って,業務の根幹を下支えするネットワークを貧弱なものにするわけにはいかない。企業ユーザーは今,どのようなネットワークを運用し,今後の展開をどう見ているか。

 その実態を探るべく,本誌と総務省は7~8月にかけて「NGN/クラウド・コンピューティング時代の企業ネットワーク実態調査」を実施した。この調査は毎年実施しており,今回は国内1167社から回答を得た。例年の通信サービスの利用状況などに加え,コスト削減の取り組みや新型インフルエンザのパンデミックへの対応についても尋ねた。その結果からは,厳しい状況を打破するべく,クラウド・コンピューティング(以下クラウド),サーバー仮想化,バースト通信といった新技術/サービスを導入し,業務効率化やセキュリティ対策を進めながら,巧みにトータル・コスト(TCO)削減の道を探る企業の姿が浮かび上がってきた。

高まるクラウド活用の意識

 例えば出張費や移動にかかる時間の削減を目指して導入される「テレビ会議」。昨年でも43.4%の企業が導入していたが,今回の調査では47.7%に達した(図1)。

図1●コスト削減に向けたサービス導入の動きが顕著に<br>厳しい経済情勢が続く中,TCO削減を目指してテレビ会議,クラウド・コンピューティングなどの導入を積極的に進める企業が増えてきた。
図1●コスト削減に向けたサービス導入の動きが顕著に
厳しい経済情勢が続く中,TCO削減を目指してテレビ会議,クラウド・コンピューティングなどの導入を積極的に進める企業が増えてきた。
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 サーバーの保守・管理コストを削減できるクラウドは,「使っている」,「使いたい」を合わせると4割を超える。昨年の調査では,クラウドを将来にかけて導入したいという企業は,1098社中わずか42社(約3.8%)だけだった。この違いを見ると,クラウドというキーワードが1年間で急速に浸透してきたことが分かる。

 2009年7月に始まったばかりの「バースト通信」に対応したWANサービスも注目を集めている。具体的にはKDDIが提供する「KDDI Wide Area Virtual Switch」(以下WVS)とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「バーストイーサアクセス」で,契約した帯域の料金のまま最大で物理回線のインタフェース帯域まで利用できるという,コスト・パフォーマンスの高さが特徴である。まだ認知度が高まっているとは言えない今の時点で,「利用したい」という回答が全体の23.9%にまで達した。

 ほかにも,WANの見直し,モバイル・データ通信の活用,シン・クライアントの導入など,様々な動きがある。企業としてコスト最適化を図る姿勢は当然だが,帯域や機器の増強を目指してきた数年前とは明らかに傾向が変化してきている。コスト削減をきっかけとして,企業ネットワークの進化が加速しつつある。

半数以上がコスト削減策を実施

 アンケート結果を見ると,この1年の間にネットワーク関連でコスト削減に取り組んだ企業は52.2%と過半数を超える(図2左)。

図2●コスト削減対策に対する過去の取り組み状況と今後の意向
図2●コスト削減対策に対する過去の取り組み状況と今後の意向
昨今の経済状況を受けてコスト削減の取り組みを実施したかを聞いた。「取り組んだ」,「取り組む予定」と回答した企業が半数以上となった。

 そしてコスト削減への取り組みは今後ますます増えていく。図2の右側のグラフは,今後のコスト削減に対する取り組みの予定をまとめたもの。コスト削減に取り組む予定という回答は57.7%と過去1年よりも増えている。このうち8割に当たる企業は過去1年においてもコスト削減に取り組んだと回答しており,対策を一過性のものとせず,継続しようと考える企業が多いことが分かる。

 過去1年にコスト削減を実施した企業が,実施した対策の内容を図3にまとめた。最も多かった回答が「電話サービスの見直し」で,47.1%と実に半数近くに上った。ここで言う電話サービスとは,固定回線と携帯電話の双方を含んでいる。このほか,ソフトウエアのライセンス見直しが35.6%,WANを別サービスに乗り換えたという回答が25.0%と,従来利用していたサービスや製品を見直すことでコスト削減を目指すという意見が多い。

図3●過去1年に実施したコスト削減策の内容<br>初期投資せずに取り組める「電話サービスの見直し」と回答した企業が多い。WANに関する比率も高く,「乗り換えた」,「集約した」などと回答した企業は重複を除くと33.8%に達した。
図3●過去1年に実施したコスト削減策の内容
初期投資せずに取り組める「電話サービスの見直し」と回答した企業が多い。WANに関する比率も高く,「乗り換えた」,「集約した」などと回答した企業は重複を除くと33.8%に達した。
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 ただ,コスト削減のために新規にサービスや製品を導入する企業も多い。典型例がテレビ会議を導入/拡充するケースで,36.5%と高い比率になった。次回からは,コスト削減策が企業のネットワークにどんな影響を与えているのかを,分野別に紹介する。

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