パンデミック対策
ICT面での取り組みは立ち後れ気味

 4~5月の大型連休で大きな話題となり,8月に入ってからまた流行が始まった新型インフルエンザのパンデミック対策についても尋ねた。コスト削減のために身動きが取りづらい状況下でも,危機が目前に迫るパンデミック対策は企業にとって喫緊の課題である。

 実際のところ,企業ユーザーの対応状況を見てみると,現状ではICT関連で何らかのパンデミック対策を実施した企業は15.1%に過ぎなかった(図1左)。これらの企業がどんな対策をしているかを見ると,安否確認システムを導入したという割合が,51.7%と多い(図1右)。有事の際に社員の安全を確認するための手段が優先されている状況である。

図1●パンデミック対策の取り組み状況<br>「実施した」と回答した企業は,15.1%とまだ少ない。対策の内容は安否確認システムやテレビ会議の比率が高い。
図1●パンデミック対策の取り組み状況
「実施した」と回答した企業は,15.1%とまだ少ない。対策の内容は安否確認システムやテレビ会議の比率が高い。
[画像のクリックで拡大表示]

 ただし,安全確認の次に必要になる事業継続の方法については対策の遅れは否めない。社員が移動できない,または出社できなくなった際のアクセス手段を確保するためのリモート・アクセス環境整備は19.3%,モバイル環境の整備は13.1%にとどまる。

 それでも一部の企業は対策を強化しつつある。システム・インテグレータのDTSはパンデミックが話題となった5月以降,ノート・パソコンや通信カードを一部の幹部向けに用意した。「出張先などで動けなくなった場合でも,遠隔から指揮を取れるようにする」(中村初 情報システム部長)ためである。日立システムアンドサービスは,モバイル環境を強化しており「各部門に配る外部持ち出し用のシン・クライアントの数を増やしたほか,幹部クラスには通信カードも配布した」(企画本部経営情報システム部の長 哲也 部長代理)。社員が自宅から利用できるWeb会議の整備も計画している。

 今後はリモート・アクセス環境整備を進めたいという比率が高い(図2右上)。合成ゴムや樹脂製造のJSRは,パソコンに挿入することで社内ネットにアクセスできるUSB型ドングルを用意する計画だ。一部の社員には既にアクセス用のノート・パソコンを支給しているが,そのほかの社員には有事の際に,郵送などでドングルを配布する。「パンデミック時には欠勤率が40%に達するという政府の想定値を参考に,用意する台数を決めている」(小島昌尚情報システム部長)と慎重に準備を進めている。

図2●パンデミック対策の取り組み予定と対策をしない理由<br>今後の対策を予定または検討中としている割合は合計で約3割。リモート・アクセス環境の整備を検討する企業が多い。対策の予定がないという企業の中ではその理由を「コストをかけたくない」とする比率が高い。
図2●パンデミック対策の取り組み予定と対策をしない理由
今後の対策を予定または検討中としている割合は合計で約3割。リモート・アクセス環境の整備を検討する企業が多い。対策の予定がないという企業の中ではその理由を「コストをかけたくない」とする比率が高い。
[画像のクリックで拡大表示]

 パンデミック対策をする予定はないという企業にその理由を聞くと,コストをかけたくないという比率が42.9%と高い(図2右下)。パンデミックという予測の付かない危機を前にして,コスト削減とのせめぎ合いに悩む企業の姿が浮かび上がっている。