バースト対応サービス
料金据え置きで広帯域4社に1社は導入に積極的

 企業のWANに対するコスト削減が求められる中,閉域網の信頼性を保ちつつ,広帯域の回線を低価格で利用できる“バースト対応”の新サービスが登場してきた。KDDIのWVSとNTTコムのバーストイーサアクセスである。どちらも2009年7月に始まった。

 両者とも料金やサービス品質は,従来のIP-VPNや広域イーサネットと同程度だが,契約帯域を越えて,物理回線の最大速度まで利用できる。広帯域と信頼性を必要とするクラウド・コンピューティングを見据えたサービスという位置付けだ。

 開始されて間もないサービスであるだけに,ユーザー企業の認知度は必ずしも高くない。バースト対応サービスの利用意向を尋ねた結果を見ると,「よく知らないので判断できない」という回答が45.6%と半数近かった(図1)。それでも,「ぜひ使いたい」が5.5%,「使ってみたい」が18.4%に達しており,4社に1社は興味を示していることが分かる。「使いたいと思わない」とした企業は1割以下。機能面の認知や運用実績の評価が進めば,導入の意欲は高まっていきそうだ。

図1●バースト通信サービスの導入意向
図1●バースト通信サービスの導入意向
幹線系のWANサービスの見直しを検討している企業に対し,バースト対応サービスの導入意向を聞いた。

 実際,デンソーはバースト対応サービスの導入に向けて検討を進めている。今は広域イーサネットを利用しているが「バースト対応サービスに切り替えると,コストは30%下がる」(IT企画部 標準化推進室 小林公英主幹)と試算している。

 現状では,運用・保守面で従来の閉域網と同等のサービス・レベルを実現できるのかを検証するため,通信事業者に運用データの提出を求めている。2009年度は企画と同時に実環境での検証を進め,1~2年以内には大規模に導入する予定である。

FTTH接続との併用で導入した企業も登場

 既にバースト対応サービスを導入した企業もある。リロケーション事業や福利厚生アウトソーシング事業を手がけるリロ・ホールディングは2009年8月,広域イーサネット「KDDI Powered Ethernet」を物理回線の最大速度まで利用できるWVSに入れ替えた。同社の場合は,バースト対応だけでなく,足回りに安価なFTTH回線を使えるプラグイン機能にも注目した。

 従来,地方のリゾート施設などの接続には,コストを重視し,FTTHやADSL回線経由でエントリーVPNを使っていた。移行に当たっては,地方拠点にはWVSのプラグイン機能を採用。従来は別々だった網を一つにまとめた。これらの効果により,「コストを2割減らしつつ,地方の中小拠点の帯域を強化できた」(グループITマネジメント室 IT企画グループ 山田和雄シニアエキスパート)という。

 WVSのバースト通信を利用するには,その仕組み上,KDDIの提携データ・センターを使用しなくてはならない。ところがリロ・ホールディングが現在利用しているデータ・センターはWVSのバースト通信に非対応。残念ながら現状ではバースト通信を利用できないが,今後はKDDIのデータ・センターを利用するなどの対処を進める。同社では拠点間の通信よりも,データ・センターと各拠点間のデータ利用が多いため,バースト通信の導入効果が大きいからだ。

 同社の山田氏は,WVSに将来加わる予定のルーターレス機能にも期待しているという。網側でルーター機能を提供するもので,メンテナンス費用が削減できることから,地方の中小拠点で積極的に導入する方針だ。同様の機能としては,NTTコムがIP-VPNと組み合わせて利用できるルーターレスプランを8月に提供し始めた。

 バースト対応サービスへのニーズは,今後さらに高まる可能性がある。今まで以上にデータ・センターを利用する企業が増えそうだからだ。調査で,ユーザー企業が今後予定しているコスト削減への取り組みについて尋ねたところ,トップは「サーバーの集約・統合」で,49.6%と格段に高い比率となっている(図2)。

図2●今後のコスト削減に向けた取り組み予定<br>今後のコスト削減を進めると回答した企業の中で「サーバーの集約」を予定する企業が約半数に達する。
図2●今後のコスト削減に向けた取り組み予定
今後のコスト削減を進めると回答した企業の中で「サーバーの集約」を予定する企業が約半数に達する。
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テレビ会議
格安で導入できるWeb会議,SaaS型サービスの導入例も

 出張費削減のためにテレビ会議システムの導入/拡充を進める企業も多い。図3は,テレビ会議システム利用率の推移を表している。「使っている」と答えた企業の比率は2008年は43.4%だったが,2009年は47.7%。着実に導入比率が高まっている。

図3●テレビ会議システムの利用状況
図3●テレビ会議システムの利用状況
専用機器を利用するテレビ会議システムと,パソコンにカメラやマイクを接続して使うWeb会議システムを合わせて集計した。

 デンソーは2008年10月,出張費の削減を目指し,シスコの関連会社ウェブエックス・コミュニケーションズ・ジャパンが運営するSaaS型のWeb会議システム「WebEx」を導入した。従来は,自前でサーバーを設置するタイプのWeb会議システムを運用していたが,保守期限が切れてサーバーを入れ替えると高額な費用が発生すると判明。そこで,1ライセンスにつき月額数千円で導入できるWebExに目を付けた。

 会議の主催者がWebブラウザに表示された操作画面上で仮想的な会議室を作り,参加者にIDやパスワードのほかURLをメールで送信する。参加者はパソコンにWebカメラやマイクを取り付けて,URLにアクセスする。得意先や部品の仕入先など外部の企業の担当者と会議を開くこともできる。「月額費用は(愛知県の本社から)東京への出張を1回減らすだけで元が取れる金額で,出張費削減に大きく寄与できている。2009年は固定費を25%削減する目標を立てているが,十分に達成できそうだ」(IT企画部の小林主幹)という。なお,Web会議では画面上で参加者が文書ファイルなどを閲覧できるが,機密防止のためにファイル転送は禁止している。

 分析機器開発のジーエルサイエンスも,東京本社に加えて福島工場などの開発拠点にテレビ会議システムを導入した。月例の経営会議のほか,基板上の文字が読めるほどの高精細カメラを利用して,開発部隊の打ち合わせにも役立てている。既存の回線を圧迫しないように,テレビ会議用にはフレッツ 光ネクストを利用し,増速のコストを抑えたという。