今回の「SaaS/ASP利用実態調査 2009-2010」の結果を紹介してきた本連載の最終回は,重要用途のSaaS/ASP利用事例412件での「トータル・コストの増減率」と「採用決定から稼働までの期間」についての結果を,回答者の属性別の傾向を交えて紹介する。

基幹業務関連のSaaS/ASPは導入前後でコスト変わらず

 「SaaS/ASPサービスの導入によるトータル・コストの増減率」(図-11)の今回調査での結果は,412件の回答全体の平均で5.7%減だった。これをSaaS/ASPサービスの用途別に分けて集計したところ,【基幹業務関連】のSaaS/ASPサービスは導入後にトータル・コストが平均1.9%減少。【ネット活用関連】と【社内業務関連】は平均9.2~9.3%減という結果だった(分野の区分,平均値の換算方法は図の脚注を参照)。

図-11●分野3分別,担当範囲別のSaaS/ASPサービスの導入によるトータル・コストの増減率(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)
図-11●分野3分別,担当範囲別のSaaS/ASPサービスの導入によるトータル・コストの増減率(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)
※<分野3分別>の【基幹業務関連】は,SaaS/ASPサービスの導入分野のうち「業界特化型」,「財務・会計」,「人事・給与」,「SFA・営業支援」,「CRM・顧客管理」,「生産・販売・仕入・物流」の6項目の回答の合計。同様に【ネット活用関連】は「Webサイト・携帯サイト構築」,「EC関連」,「メール配信」,「動画配信」,「セキュリティ」,「SNS・ブログ」の6項目の回答の合計。【社内業務関連】は「教育」,「社内・グループ間情報共有」,「Officeソフト」の3項目の回答の合計である。
※<担当範囲別>の【全社】は,「担当・関与している情報システムはどの範囲のものか」(複数回答)の設問で「全社の情報システム」を選択した回答者。【全社以外】は選択肢のうち「全社の情報システム」を選択しなかった回答者(「部門の情報システム」「事業所の情報システム」「ワークグループの情報システム」のいずれか一つ以上だけを選択した回答者)である。
※「トータル・コストの増減率」の平均値は,「50%以上、上昇」を65%,「20~50%未満、上昇」を35%,「10~20%未満、上昇」を15%,「10%未満、上昇」を5%,「変化はない」を0%,「10%未満、減少」を-5%,「10~20%未満、減少」を-15%,「20~50%未満、減少」を-35%,「50%以上、減少」を-65%に換算して集計した。

 1年前の2008年8月に日経マーケット・アクセスが今回とほぼ同じ母集団を対象に実施した調査では,「基幹業務系のSaaS/ASPサービス」と「非定型業務系のSaaS/ASPサービス」に分けてコストの増減率を集計したが,「基幹業務系」はSaaS/ASPの導入後にコストが平均0.9%の微増,「非定型業務系」は平均9.5%減だった。前回,今回とも,基幹業務関連ではSaaS/ASPサービスの導入でトータル・コストはほとんど変わらず,情報共有やネット活用などの用途では10%弱のコスト削減になる,という結果だ。

部門や事業所のSaaS/ASP導入は難航している模様

 今回の調査では,SaaS/ASPサービスの採用決定から稼働までの期間についても調査した(図-12)。結果は「1カ月未満」から「1年以上」まで回答がばらけたが,計算上の平均値は回答全体で4.0カ月,中央値は「2カ月~3カ月未満」。【基幹業務関連】では「4カ月~5カ月未満」が中央値となっている。

図-12●分野3分別,担当範囲別のSaaS/ASPサービスの採用決定から稼働までに要した期間(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)
図-12●分野3分別,担当範囲別のSaaS/ASPサービスの採用決定から稼働までに要した期間(「最も重要な分野」と「2番目に重要な分野」の合算,無回答を含む)
※<分野3分別>の【基幹業務関連】は,SaaS/ASPサービスの導入分野のうち「業界特化型」,「財務・会計」,「人事・給与」,「SFA・営業支援」,「CRM・顧客管理」,「生産・販売・仕入・物流」の6項目の回答の合計。同様に【ネット活用関連】は「Webサイト・携帯サイト構築」,「EC関連」,「メール配信」,「動画配信」,「セキュリティ」,「SNS・ブログ」の6項目の回答の合計。【社内業務関連】は「教育」,「社内・グループ間情報共有」,「Officeソフト」の3項目の回答の合計である。
※<担当範囲別>の【全社】は,「担当・関与している情報システムはどの範囲のものか」(複数回答)の設問で「全社の情報システム」を選択した回答者。【全社以外】は選択肢のうち「全社の情報システム」を選択しなかった回答者(「部門の情報システム」「事業所の情報システム」「ワークグループの情報システム」のいずれか一つ以上だけを選択した回答者)である。
※「サービスの決定から稼働までの期間」の平均値は,「1カ月未満」を0.5カ月,「1カ月~2カ月未満」を1.5カ月,「2カ月~3カ月未満」を2.5カ月,「3カ月~4カ月未満」を3.5カ月,「4カ月~5カ月未満」を4.5カ月,「5カ月~6カ月未満」を5.5カ月,「6カ月~1年未満」を9カ月,「1年以上」を15カ月に換算して集計した。

 「コスト増減率」「稼働までの期間」とも,「全社システム以外のみ」の担当者の回答は,やや特異な傾向を示した。票数は少ないものの,「コスト増減率」では1.7%のコスト増(全社システム担当者の平均は6.6%のコスト減)。「稼働までの期間」では全社システム担当者の平均3.8カ月に対し1.5倍以上の6.3カ月で,中央値は「5カ月~6カ月未満」と顕著に長かった。部門や事業所システムではSaaS/ASPサービスの導入が難航し,コスト高につながっている可能性が高い,という状況が読み取れる結果だ。


※調査概要
 日経BPコンサルティングの調査モニターのうち,「所属する企業・組織で自社あるいは自部門の情報システムにかかわる仕事を担当している」とした回答者を対象に,SaaS/ASP利用の現状と計画,利用開始時期やコスト,利用開始前と開始後の期待効果と不安要因,不満点,利用開始予定時期や予定分野,期待する効果やコスト削減率などを聞いた。
 調査時期は2009年8月3日~8月20日。全回収数(1896件)のうち,SaaS/ASPを使用していると回答した339件,および使用を計画,検討,試用していると回答した359件の合計698件を有効回答とした。有効回答者の所属業種は製造業が33.8%,流通業が11.7%,サービス業(金融関連,情報処理を除く)が14.5%,政府・自治体・公共が9.2%,金融/証券/保険業が5.6%など。有効回答者の担当システムの範囲(複数回答)は全社情報システムへの関与者が83.5%,部門情報システムへの関与者が31.5%,事業所の情報システムへの関与者が28.7%,ワークグループの情報システムへの関与者が15.3%。
※参考文献
本記事は、日経マーケット・アクセスが2009年9月30日に発行した『SaaS/ASP利用実態調査2009-2010』を参考に執筆しました。詳細はこちらをご覧ください。