最終回となる今回は,中堅・中小企業におけるITアプリケーション導入実態の動向を取り上げたい。

業務系など中核アプリケーションの導入率は高い

 中堅・中小企業においても基幹系アプリケーションの導入率は高い(図1)。「財務・会計管理」(89.4%),「人事管理・給与管理」(84.3%),「販売管理・在庫管理」(80.3%)と,導入率は8割以上に達する。導入企業が製造業に限定される「生産管理」の導入率も42.5%である。

図1●ITアプリケーションの導入状況(Nは有効回答数)
図1●ITアプリケーションの導入状況(Nは有効回答数)

 情報系アプリケーションでは,「グループウエア」(62.4%)の導入が進んでいる。その一方で,「CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)」(10.2%),「SFA(セールス・フォース・オートメーション)」(10.0%),「CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)」(9.6%)といった売上高や営業生産性に貢献する戦略的アプリケーションの導入率は1割前後に低迷している。

 しかし,戦略的アプリケーションへの関心が低いわけではない。CRMは27.0%,SFAは33.6%%の企業が「検討中(新規)+関心がある」と回答しており,興味・関心はあっても導入が進まない状況にあることが分かる。基幹系アプリケーションのような「業務上必須」なアプリケーションは導入が進んでいるが,「効果が出るまでに時間がかかる」戦略系アプリケーションは導入をためらう傾向があるようだ。

 また「ERP(統合基幹業務システム)」の導入率は,26.4%と微妙なレベルにとどまっている。おそらく,現行の基幹系アプリケーションが支障なく使えているためERPへのリプレースに踏み切りにくいのだろう。経済情勢の悪化による投資意欲の減退も,その傾向に拍車をかけていると考えられる。

セキュリティなど事業継続の必要条件に投資する傾向が強まる

 ノークリサーチが2008年11月に実施した中堅・中小企業のIT投資動向(DI値)を見ると,ほとんどがマイナスである。その中で「セキュリティ」(+8.5)と「コンプライアンス」(+3.9)だけがプラスの値を示している(図2)。すでに導入しているシステムを刷新する動きは鈍いが,セキュリティ,コンプライアンスなど企業が事業を継続する上での必要条件に投資を継続する傾向が強い。

図2●IT投資動向の項目別DI値(Nは有効回答数)
図2●IT投資動向の項目別DI値(Nは有効回答数)

 業務改善・向上とIT投資の関連性についてみると,「ITは業績改善・向上の効果的な手段として活用しており,今後も継続して投資していく」が49.8%,「業績改善・向上のためにITを活用中で,まだ効果は得られていないが投資は継続する」が24.9%となっている(図3)。両者を合計すると,実に7割以上の企業が業務改善・コスト削減の手段としてITに期待していることが分かる。

図3●業務改善・向上とIT投資の関連性(Nは有効回答数)
図3●業務改善・向上とIT投資の関連性(Nは有効回答数)

 つまり中堅・中小企業におけるITへの投資意欲は,より「具体的な結果を伴う」ものに強く反応する。だとすれば,まず現在導入している基幹系アプリケーションやグループウエアなどの情報系アプリケーションを整備して有効活用し,コスト削減や売上向上のツールに仕立て上げるべきだろう。その上で業務システムの効率化やERPの導入など,経営に役立つIT投資を行っていくことが望ましい。

 またこれまで手が出しにくかったSFA,CRMのような戦略的アプリケーションも,SaaS(Software as a Service)のような新しい提供形態によって利用しやすい仕組みが出来上がりつつある。中堅・中小企業も「コスト削減」だけではなく「経営をドライブする仕組みとしてのIT」が必要な時期となってきている。

 なお,調査プロフィールについてはこちらを参照していただきたい。

青木 健太郎(あおき けんたろう)
ノークリサーチ アナリスト
国内大手企業の情報システム部門,Web系のITベンチャ企業を経てノークリサーチに入社。ERPを中心としたアプリケーション市場担当の若手アナリスト。