2008年はSaaS(Software as a Service)元年だった。NECや富士通などの大手ハードウエア・ベンダー,KDDIなどの大手通信事業者,さらにNTTデータのような大手SIerまでが,そろってSaaS事業への参入を開始した。その一方で,経済産業省が中小企業のIT促進を目的とするSaaSプロジェクトを打ち出すなど,SaaSは“IT業界最大のイベント”のような扱いを受けた。

SaaSの認知率は5割強だが導入意向は1割弱に低迷

 だが,現実の中堅・中小企業におけるSaaSの認知状況を見ると,「内容まである程度理解している」は全体の4分の1に過ぎず,「名前だけ知っている」29.1%と合わせても5割強にとどまっている(図1)。回答者が企業のIT担当者であることを考えると,認知率は大変低いと言わざるを得ない。

図1●SaaSの認知状況(Nは有効回答数)
図1●SaaSの認知状況(Nは有効回答数)

 SaaSの導入意向も,「導入予定はない/分からない」が7割を占める(図2)。「すでに導入済み」はわずか2.4%であり,「導入検討」を合わせても1割に満たない。冒頭で触れたように“IT業界最大のイベント”として注目される一方で,実際の中堅・中小企業へのSaaS浸透はまだスタート地点だと言える。

図2●SaaSの導入意向(Nは有効回答数)
図2●SaaSの導入意向(Nは有効回答数)

 SaaSへの関心度は「魅力がある」は20.0%で,「魅力がない」が22.9%,「分からない」が57.1%だった。「内容まである程度理解している」という回答が25.2%だったことを考慮すれば,「魅力がある」の20.0%は決して低い値ではない。今後,SaaSの認知度が上がっていけば,「魅力がある」と考えるユーザーも増加していくと予想される。

 「魅力がある」と回答したユーザーには,SaaSのどのような点に魅力を感じるかを質問した。最も多かったのは「システム運用管理からの解放」(84.1%)で,これに「システム構築・導入に時間がかからない」(63.0%),「設置スペース,電源,空調などの環境コスト削減」(52.9%)が続く(図3)。SaaSの導入効果として,IT担当者の負担軽減やコスト削減を期待していることが分かる。

図3●SaaSのどのような点に魅力を感じるか(Nは有効回答数)
図3●SaaSのどのような点に魅力を感じるか(Nは有効回答数)

セキュリティやサービス提供者の運用体制に不安の声も

 SaaSに「魅力がある」および「魅力がない」と回答したユーザーには,SaaSが抱える課題についても質問した。「セキュリティに不安あり」(36.3%)が最も多く,次いで「システムの形態,事業者の変更が不安」(34.6%),「メリットが不明確」(34.1%),「コスト削減につながらない」(31.4%)となる(図4

図4●SaaSが抱える課題(Nは有効回答数)
図4●SaaSが抱える課題(Nは有効回答数)

 社外にシステムを預けることの不安,具体的にはセキュリティ,システムや運用体制の“ブラックボックス化”などの不安が挙げられている。「コスト削減につながらない」「メリットが不明確」といった意見からは,SaaSの導入メリットを冷静に判断しようとする傾向もうかがえる。

 SaaSの用途はこれまで,グループウエア,Webメール,Web会議システム,企業ポータルといった社外に預けても比較的リスクが少ない情報系アプリケーションが中心となる傾向があった。しかし,2008年後半からは,セキュリティ対策やクライアントPC管理,データバックアップといった社内での実施難易度が高い業務を提供するSaaSが増加している。コンプライアンス対策を目的に,外部の第三者にデータ管理を委ねて監査証跡を記録し,データの正当性を確保しようというサービスも登場している。

 こうした一連の動きから,外部にデータ預けることへのユーザーの抵抗感は徐々に取り除かれていくと予想される。そのためにもSaaSベンダーには,社内でシステムを運用する場合と比較したSaaSのメリット,SaaSが解決する業務課題をきめ細かくユーザーに提示して,不安をひとつずつ取り除く努力が求められている。そうすれば,今後5年程度はゆっくりとしたペースで,そして臨界点を超えたら一気に普及することが期待できる。

 次回は中堅・中小企業のアプリケーションの利用状況について触れたい。なお,調査プロフィールと今後の連載予定はこちらを参照していただきたい。

青木 健太郎(あおき けんたろう)
ノークリサーチ アナリスト
国内大手企業の情報システム部門,Web系のITベンチャ企業を経てノークリサーチに入社。ERPを中心としたアプリケーション市場担当の若手アナリスト。