サーバー管理とともに情報システム担当者の頭を悩ませているのが,サーバーに比べて導入台数の多いクライアントPCの管理である。運用管理工数の軽減とクライアントPCからの情報漏えい対策は,担当者にとって重要な課題となっている。

 これらに対する解決策として注目されているのが,サーバー側でアプリケーションの処理,データ管理をまとめて実行するシンクライアントである。

クライアントPCの導入台数は100台~300台未満が3割

 今回の調査では,回答企業におけるクライアントPCの導入台数は「100台~300台未満」が29.8%,「10台~50台未満」が26.4%,「50台~100台未満」が22.4%となっている(図1)。「10台~300台」が8割近くを占めており,平均導入台数は約110台となる。また年商規模が大きくなるにつれて,当然のことながら導入台数も多くなる。

図1●クライアントPCの導入台数(Nは有効回答数)
図1●クライアントPCの導入台数(Nは有効回答数)

 クライアントPC管理の課題では,「バージョンアップ,セキュリティパッチ適用などの運用管理」(73.4%)が最も多く,「機密情報や個人情報などの漏えい対策」(66.4%)が続いている(図2)。クライアントPCは台数が多いだけでなく,複数のOSごとにバージョンアップ,セキュリティパッチの適用やそれに付随する検証作業が発生する。システム担当者にとって,これらの作業が大きな負担となっていることが分かる。また内部統制,セキュリティの観点から,情報漏えい対策も課題となっている。

図2●クライアントPC管理の課題(複数回答,Nは有効回答数)
図2●クライアントPC管理の課題(複数回答,Nは有効回答数)

シンクライアントの認知度は7割弱

 シンクライアントの認知度は67.6%で,2007年の63.8%と比較すると3.8ポイント上昇した。導入で期待する効果は,「機密情報や個人情報などの漏えい防止」(75.0%)が最も多く,「バージョンアップ,セキュリティパッチ適用などの運用工数軽減」(70.5%),「サポート作業の容易性の向上」(55.1%)が続いている(図3)。シンクライアント導入効果として情報漏洩えい防止に期待が集まっていることが分かる。

図3●シンクライアント・システム導入で期待する効果(複数回答,Nは有効回答数)
図3●シンクライアント・システム導入で期待する効果(複数回答,Nは有効回答数)

 その一方で,シンクライアントの導入状況は「導入済み」が4.0%,「半年以内に導入する計画」が1.1%に過ぎず,「具体的ではないが検討/考慮している」(27.4%)を合わせても3割強にとどまっている(図4)。しかも,2007年の調査と比較すると,これらの合計は6.1ポイントも下がっている。つまり,シンクライアントの認知度が向上する一方で,導入意向が低下している。これは,企業のシンクライアントへの理解を深まったことで,導入時のコストやシステム構築の手間の大きさ,導入実績の少なさなど,現状のソリューションの問題点や課題が認知されたことが原因と考えられる。

図4●シンクライアント・システムの導入意向(Nは有効回答数)
図4●シンクライアント・システムの導入意向(Nは有効回答数)

 しかし,導入阻害要因の一つである高価格も,シンクライアント端末の低価格化が進んでいる。一方で仮想化デスクトップなど,既存のクライアントPCをそのまま使用するソフトウエア的なアプローチも登場している。今後,情報漏えい対策や運用工数削減に加えて,クライアントPCの省電力化やテレワーク,在宅勤務といった新しい「追い風」により,一気に導入が加速する可能性も考えられる。

 次回は中堅・中小企業が期待するSaaS(Software as a Service)を取り上げる。なお,調査プロフィールと今後の連載予定はこちらを参照していただきたい。

青木 健太郎(あおき けんたろう)
ノークリサーチ アナリスト
国内大手企業の情報システム部門,Web系のITベンチャ企業を経てノークリサーチに入社。ERPを中心としたアプリケーション市場担当の若手アナリスト。