調査内容 IT関連キーワードの認知度・業務への影響・利用状況
調査時期 2008年11月中旬
調査対象 ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者
有効回答 2933件(1137件)
( )内は情報システム担当者の有効回答数


 日経マーケット・アクセスでは,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に,最新あるいは注目のIT関連キーワードを毎月三つずつ挙げて,その認知度,業務への影響と利用の状況について聞いている。今回の2008年11月調査では,「エントリーVPN」「重複排除(データ・バックアップ用ツールやディスク装置の機能として)」「PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard)」の3つのキーワードを取り上げた。

「格安IP-VPN」は55%が「将来かかわる」,5%が「全社的に運用」

 企業の拠点間をつなぐWANサービスの選択肢の中で,IP通信と暗号化技術により仮想的な専用ネットワークを構築するIP-VPN(virtual private network)サービスは,上場企業の約55%に導入されている(「企業ネット実態調査」日経コミュニケーション2008年9月1日号参照)。そのIP-VPNサービスの中でも,足回り(アクセス回線)にADSL(asymmetric digital subscriber line)やFTTH(fiber to the home)回線を使用する「エントリーVPN」の採用率が伸びている。デジタル専用線やイーサネット専用線などを使った品質保証(ギャランティ)型VPNサービスより割安,同じくアクセス回線にADSLやFTTHを用いてインターネット経由で接続するインターネットVPNよりは,閉域網の中でVPNを構築するため不正アクセスなどの心配が少ないとされる。

 今回2008年11月調査のキーワードとしてこの「エントリーVPN」を提示したところ,認知度のスコアは今回も含めこれまでに提示した78種のキーワード(前回2008年10月調査で同じキーワードを提示し再調査した初回2006年9月調査分を除く)の平均値2.21を下回る1.70とやや低め。しかし「聞いたことがない」とした回答者を除いて集計した“業務への影響度”スコアは78種平均の2.89を上回る2.92。同じく「聞いたことがない」とした回答者を除いた“応用/利用状況”スコアは,78種平均の1.65に届かず1.54。認知度と応用/利用状況は中位からやや下,という結果だった。

 回答の内訳で見ると,「エントリーVPN」の認知度は,「聞いたことがある」が25.5%で78種平均の26.6%に近い。これに「業務に通用する知識がある」(2.6%)と「ある程度理解している」(9.5%)を加えた37.6%は,キーワード78種中下から16番目で低めだった。

 業務への影響度では「将来かかわる可能性がある」が55.0%で78種平均(51.3%)を上回り,「自分の業務とかかわる」の20.4%も平均の21.6%(78種の中央値は20.6%)に近い。この2つの選択肢の合計比率では78種のほぼ真ん中(37番目)という位置だ。

 応用/利用状況はやや低いスコアだが,「全社的に運用」の4.9%は78種の平均値と同じ,「一部で運用」の7.8%も78種の中央値7.9%(平均値は9.1%)に近い。「一部で試験運用」(2.7%)と「導入を計画」(5.7%)が低め(ともに78種中の下から20番目)のためスコアが下がっている。

バックアップ負荷とコストを低減する「重複排除」も「将来かかわる」高率だが利用はまだ伸びず

 サーバー統合や集約により,一度のバックアップ業務で保存しなければならないデータ量が急増している。バックアップ処理の時間とコストを抑える目的で,データ・バックアップ用ツールやディスク装置,さらには仮想化ソフト・ベンダーが提供する管理ツールなどに,「データ重複排除」という新機能の追加が目立ってきた。

 「重複排除(dedupe:de-duplication)」は簡単に言えば,差分バックアップを自動化,高度化したもの。バックアップ対象のデータの中から,既にバックアップ済みの部分を除き,更新されたデータだけをバックアップに書き込む。重複部分は,既に書き込まれているバックアップへのポインタ情報で置き換え,論理的には最新データのフル・バックアップと同等に見せる,というのがほぼ共通した手法だ。

 今回2008年11月調査のキーワードに「重複排除」を提示したところ,図示したように前述の「エントリーVPN」とよく似た結果となった。認知度と応用/利用状況はやや低めのスコアだが,業務への影響度スコアはこれまでの78種のキーワードの平均値に近い。

 認知度スコアは「エントリーVPN」と同じ1.70。「聞いたことがない」率64.4%は78種中13番目の高さだ。しかしこれを除いて集計した“業務への影響度”はスコア換算で3.08とやや高く,78種中22番目の位置(78種平均は2.89,中央値は2.92)。特に「将来かかわる可能性がある」の61.6%は,2008年8月調査の「ホット・マイグレーション」(63.9%),2007年7月調査の「ESB(Enterprise Service Bus)」(62.0%)に次ぐ歴代3位の高率だ。

 「重複排除」の“応用/利用状況”スコアは1.52で78種中50番目,奇しくも同じバックアップ関連技術の「VTL(仮想テープ・ライブラリ)」(2007年8月調査,1.53)とほぼ同スコアだ。応用/利用状況の回答の内訳も「VTL」と「重複排除」はほぼ同じで,5つの選択肢とも2ポイント以内の差におさまっている。「VTL」と「重複排除」を比べると,認知度では「VTL」の「聞いたことがある」が8ポイント高く(28.9%対20.9%),この差がほぼそのまま「聞いたことがない」の差(56.5%対64.4%)になっており,認知度は「VTL」が高め。しかし業務への影響度では「将来かかわる可能性がある」の13ポイント差(48.6%対61.6%)が「自分の業務に関係ない」(31.0%対17.1%)につながっており,「重複排除」の方が将来性が高い。

情報セキュリティ基準の「PCIDSS」は8割が「聞いたことがない」

 情報セキュリティーマネジメントシステム(ISMS)の基準として,クレジットカード業界から発案され,今後日本でも一般企業への適用が進むと見られているのが「PCIDSS」。カード会員の情報や取引情報の保護について,技術的なセキュリティ要件が決められている。2008年3月調査で聞いた認証基準「JIS Q 27001(ISO/IEC 27001)認証」を補完する,より具体的なセキュリティ要件のガイドラインとして話題にのぼることが増えてきた。

 ただし今回の調査では,「PCIDSS」はまだ認知度,業務への影響度,応用/利用状況とも低スコアで,特にまだ「聞いたことがない」という回答者の多さ(80.0%)が目立った。「JIS Q 27001認証」の「聞いたことがない」の54.1%よりはるかに高く,「PUE(Power Usage Effectiveness)」(2008年6月調査,83.7%),「MAID(Massive Array of Idle Disks)」(2008年5月調査,80.4%)に次ぐ過去3番目の高率。認知度スコア1.37もPUE,MAIDに次いで下から3番目である。

 これを除いて集計した業務への影響度スコアは2.53で下から14番目。「JIS Q 27001認証」が78種平均の2.89(中央値2.92)とほぼ同じ2.91の影響度スコアを得たのと比べると,これもはるかに低い。「将来かかわる可能性がある」が約半数の52.4%でこれは「JIS Q 27001認証」(50.4%)とほぼ同じだが,「自分の業務とかかわる」が12.1%対22.5%と10ポイント以上低い。

 応用/利用状況は,スコア換算が1.32で78種中下から22番目(78種平均は1.65,中央値1.57)。「全社的に運用」が3.5%とやや高かった(78種平均4.9%,中央値3.3%)が,「全社的に運用」~「一部で試験運用」の合計は10.0%。この「全社的に運用」~「一部で試験運用」の合計値は,「JIS Q 27001認証」(20.3%)をはじめ,「フォレンジック」(2007年3月調査,20.9%),「UTM (統合脅威管理:Unified Threat Management)」(2007年7月調査,20.1%),「検疫ネットワーク」(2008年7月調査,19.0%),「生体認証」(2006年12月調査,18.9%)と,セキュリティー関連のキーワードがいずれも20%前後の値をマークした指標だが,「PCIDSS」はその半分程度の比率しか得られなかった。

■調査概要
 日経マーケット・アクセスが,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に,IT関連の最近のキーワードの認知度,自身の業務への影響をどう見ているか,回答者の所属組織での利用状況を聞いた。
 「認知度」は四択の質問で「業務に通用する十分な知識がある」を5,「内容をある程度理解している」を3.67,「名前だけは聞いたことがある」を2.33,「聞いたことがない」を1点にスコア換算した。
 同様に「業務への影響」は三択で「自分の業務と深い関わりがある」を5,「今は関わりがないが,将来関係するかもしれない」を3,「自分の業務には関係ない」を1点に換算。
 「応用/利用状況」は五択で「全社的に運用されている」を5,「一部の部門,業務で運用されている」を4,「一部の部門,業務で試験的に運用されている」を3,「導入を計画している」を2,「導入/利用計画はまだ具体化していない」を1点に換算した。なお,認知度で「聞いたことがない」とした回答者の「業務への影響」と「応用/利用状況」への回答は無効として集計から除外している。
 調査実施時期は2008年11月中旬,調査全体の有効回答は2933件,「所属する企業・組織で自社の情報システムにかかわる業務(企画立案・設計・開発・運用・予算承認など)を担当している」とした実質的な有効回答は1137件。

図1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度・業務への影響・利用状況
図1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度・業務への影響・利用状況

図2-1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度
図2-1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度

図2-2●情報システム担当者の最新キーワードの業務への影響
図2-2●情報システム担当者の最新キーワードの業務への影響

図2-3●情報システム担当者の最新キーワードの利用状況
図2-3●情報システム担当者の最新キーワードの利用状況