中堅・中小企業のIT活用を理解する際には,まず予算に関する状況を把握する必要がある。ソリューションを提供する側にしても,中堅・中小企業がITにどれくらいの投資意欲があるかを理解しなければ,彼らにどのようなソリューションを提供すべきか適切な判断を下すことはできない。予算に関する状況は,以下の3点に要約できる。

  • 年間どれくらいのIT予算を投じているのか?
  • その金額は増えているのか,減っているのか?
  • 予算計画はどのように立てているのか?

 以下,中堅・中小企業における年間IT投資額の年商に対する比率を,企業規模別,業種別に列挙する(図1)。データは2008年冬(2月)時点と2008年春(5月)時点を比較できるようにしてある。なお,ここでの「年間IT投資額」とは

  • ハードウエア及びソフトウエアの新規導入費用
  • 年間ライセンス料金
  • 保守・運用管理に伴う費用(外部委託費含む)

のことを指す。社員の人件費,電話やFAXなどのOA機器及びそれに関連する消耗品は対象外とする。

図1●年商に対する年間IT投資額の比率(Nは有効回答数)
図1●年商に対する年間IT投資額の比率(Nは有効回答数)

 さらに「今後IT投資を増やす」と回答した企業の割合から「今後IT投資を減らす」と回答した企業の割合を引いたDI(Diffusion Index)値について,2008年冬(2月)と2008年春(5月)を比較してみる(図2)。

図2●IT投資意向DI値(Nは有効回答数)
図2●IT投資意向DI値(Nは有効回答数)

 中堅Hクラス(年商300億~500億円)は大企業と類似した傾向を示すことが多く,内部統制など必要なIT投資が一巡したこともあって投資意向はやや減速に向かっている。その一方で,中堅Mクラス(年商100億~300億円)や中堅Lクラス(年商50億~100億円)はIT投資に意欲的である。

 当面のIT投資は,サーバー統合による運用コスト削減などの“引き締め策”が主体となっている。運用コスト削減やセキュリティの強化は大企業/中堅企業はもちろん,サーバー台数が比較的少ない中小クラス(年商5億~50億円)においても共通の課題であり,それらがIT投資意向を引き上げる要因になっていると推測される。調査でも,3~5台といった比較的小規模なシステム運用環境におけるサーバー統合のニーズは高いことが明らかになっている(注1)。“攻めの投資”で期待できるのは,中堅Mクラスにおいて用途別に導入された基幹系アプリケーションのERP(統合基幹業務システム)へのリプレースである。

 業種別で見ると,原油価格高騰による原材料費の影響を直接的に受けている加工製造業でのIT投資意欲が大幅に減退している。また,IT関連サービスに限定したDI値を2008年冬(2月)時点で測定していなかったため,図2では比較のためにサービス業全体の2008年冬のDI値(30.2)をIT関連サービスの値として掲載している。あくまで参考値とお考えいただきたい。

 現時点では中堅HクラスのIT投資にやや一巡感が見られるが,中堅Mクラス,中堅Lクラス,中小クラスは“引き締め策”としての投資ではあるが引き続き意欲的。業種別の投資意欲は,加工製造業を除いては堅調に推移しているということができる。