「IT投資は2007年度がピーク」「3分の1の企業で事業中断に至るシステム障害が発生」「基幹業務システムの平均寿命は約14年」――。ユーザー企業における情報システムの実態が、JUASの調査で明らかになった。

 この調査「企業IT動向調査」は、経済産業省の委託事業として1994年度から毎年実施しているもの。ユーザー企業における情報システムの実態や経年変化を把握し、情報化の推進に役立てるのが目的だ。

 14回目の今回もIT部門と利用部門(経営企画部門)の両方を調査した。東証一部上場企業を中心とする約4000社にアンケートとインタビューを実施した。

 全14テーマにわたって調査した。予算、投資、組織、採用技術、開発、運用などに加え、新たに「ハード/ソフトのライフサイクル、アップグレードに関する諸問題」と「ITを活用したビジネスイノベーション」の二つを重点的に調べた。

 調査結果を分析すると、注目すべきポイントが4点ほど浮かび上がった。

 まず07年度は21世紀に入って最もIT投資が活発な年だった。IT投資が前年度(06年度)より「増加」した企業の割合から「減少」した企業の割合を引いた値「DI値」は、38ポイントのプラス。2000年度以降で最も高い値を記録した。景気の後退もあり、08年度の予測DI値は15ポイントのプラスに下がる。07年度は近年のIT投資のピークとなった公算が大きい。

 注目点の2番めは、システムの障害対策が道半ばであること。回答企業の3分の1で業務中断に至る障害が発生した。システムの信頼性に注目が集まるなか、各社とも障害対策やBCP(事業継続計画)の策定を進めているが、万全とはいえないようだ。

 三つめのポイントは、IT部門が“変革の脇役”であること。ITを生かしたビジネスの変革「ビジネスイノベーション」の推進主体は「業務部門」と回答した企業が過半数だった。

 最後は、基幹業務システムの寿命に対するユーザー企業とベンダーの認識のズレが明らかになったこと。ユーザー企業は基幹業務システムに使うハード/ソフトのライフサイクルとして平均14年を期待しており、ベンダーの認識とは4年の隔たりがあった。

 以下で詳細を見ていこう。

IT投資,08年度以降は伸び悩み

 07年度は例年になくIT投資意欲が高かった。IT予算(保守運用費+新規投資)を増加させた企業は61%と、前年度より9ポイント増えた。先述の通り、「DI値」は38ポイントと3年連続で増加した(図1)。IT予算の単純平均額も前年度比10%増の25億8200万円になった。好調な業績を背景に、各企業が積極的なIT投資を続けた状況が読み取れる。

図1●IT投資DIの実績推移
図1●IT投資DIの実績推移
パワーソリューションズの高橋氏は洗い出した機能ごとに「システム化するための労力」と「システム化による効果」を設定し,開発の優先度を決める。業務内容分析シートで機能の優先度を決める
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 苦境下でIT投資を絞っていた企業がシステムの老朽化などによって、最低限のIT投資を復活させたとの見方もできる。企業業績とIT予算増減の相関を見ると「減収減益」企業のDI値は29ポイントだった。前年度の9ポイントより大幅に改善した(図2)。

図2●業績別に見たIT投資DIの実績の推移
図2●業績別に見たIT投資DIの実績の推移
図1と同じくDI値の推移を回答企業の業績別に見た

 売上高に占めるIT予算の比率は1.28%と前年度より0.16ポイント上昇した(図3)。

図3●売上高に占めるIT予算の比率
図3●売上高に占めるIT予算の比率
金融系が比率、伸び率ともに突出している

 業種別では金融が比率、伸び率ともに突出して高い。もともとIT装置産業の色合いが強い上に、メガバンクのシステム統合や生損保の不払い問題対応で投資が活発化したとみられる。