経営戦略的なアプリケーションの定義は難しい。一般的には企業のコアコンピタンスを生かせるようなITアプリケーションという意味になるだろうが,それこそ企業を戦略的に変える「シルバーバレット(銀の弾丸)=特効薬」のアプリケーションは存在しない。アプリケーションが戦略的なのではなく,企業がその手段としてアプリケーションを戦略的に利用するという前提があるからだ。どんな安いアプリケーションでも使い方によっては戦略的になり得る。逆に,どんなに高機能なアプリケーションでも使い方によっては戦略的な活用に至らない。

 ここでは“経営戦略的”という言葉で,顧客対応型のアプリケーションをイメージしている。具体的には,CRM(顧客関係管理)やCTI(Computer Telephony Integration)など,売上高や営業生産性を高めるアプリケーション群を「戦略的なアプリケーション」としてカテゴライズした。

 しかし,顧客対応型のアプリケーションの導入率は低い。昨年ご紹介した弊社の中堅・中小企業のITソリューションの導入実態分析でも,これらのソリューションの導入率は1割前後に止まっていた。理由はいくつか考えられるが「必要性が必ずしも高くない(と思われている)」ことが,導入が進まない最大の理由となっている。さらに,「効果が出るまでには時間がかかる(一定量のデータ蓄積と社員のデータ入力のルール化が必要)」ため,即効性を求める中堅・中小企業には馴染みにくいという点も指摘できるだろう。

CRMはSMILEα顧客管理がシェアトップ

 今回の戦略的アプリケーションの調査結果は,そうした低い導入率という前提でご覧いただきたい。顧客対応型アプリケーションとしては,CRM,CTI,DWH(データ・ウエアハウス)の3つを取り上げる。狭義のDWHは各種データを格納・参照する仕組みだが,ここではそれを加工・分析するBI(ビジネス・インテリジェンス)までを含んでいる。

 CRMのパッケージは,手軽な国産品と本格的な海外製品に大別される。導入シェアを見ると,大塚商会の「SMILEα顧客管理」が15.2%でトップ,弥生の「弥生顧客」が10.6%,日本オラクルの「Siebel」が9.1%と続く。満足度評価では,シェア5番手の三井物産の「Vantive」が73.3で最も高い。弥生の「弥生顧客」が71.4,大塚商会の「SMILEα顧客管理」が70.0と高評価を得ている(図1)。

図1●シェア上位だったCRMパッケージの満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)
図1●シェア上位だったCRMパッケージの満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)

 CTIパッケージは導入件数そのものが33件と少なく,参考値として見ていただきたい。NECの「iView工房/CS」が21.2%でシェアトップ,大塚商会の「SMILEαCTI」が18.2%,沖電気工業の「CTstage」が12.1%でこれに続く(図2)。満足度評価ではシェア3番手の沖電気工業の「CTstage」が80.0が最も高く,大塚商会の「SMILEαCTI」は73.3,NECの「iView工房/CS」は71.4だった。

図2●シェア上位だったCTIパッケージの満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)
図2●シェア上位だったCTIパッケージの満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)

 DWHの導入シェアではBI製品である日本ビジネスオブジェクトの「Business Objects」が26.1%でトップ。これにコグノスの「Powerplay/impromptu」が12.2%,日本IBMの「Red Brick Warehouse」が11.3%で続く(図3)。DWHパッケージの評価は,シェア3番手日本IBMの「Red Brick Warehouse」とコグノスの「Powerplay/impromptu」が70.8と並び,日本ビジネスオブジェクト「Business Objects」の評価は66.0に止まった。

図3●シェア上位だったDWHパッケージ(BI製品を含む)の満足度。(5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)
図3●シェア上位だったDWHパッケージ(BI製品を含む)の満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)

 最終回となる次回は,中堅・中小企業における今後のITアプリケーション動向を展望したい。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て,98年にノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。07年には中堅・中小企業のIT部門向けQ&Aサイト「シス蔵」をテクネット社と立ち上げた。