ERP(統合基幹業務システム)の導入が,中堅・中小企業で活発だ。ERPは,基幹業務に関連するデータベースを一元管理して複数業務を統合的に連携させる。ハードウエアとソフトウエアを一体化したオフコンや単体業務のパッケージ製品は,その多くがERPにリプレースされつつある。

 中堅・中小企業向けのERPではベンダー数も多いため,1社が抜きん出て圧倒的なシェアを取るようなことはなく,それぞれが得意分野で住み分けているような状況だ。いわゆる混戦模様だが,このままでは「ふるいにかけられて離脱するベンダー」もいずれ出てくることになるだろう。

上位ベンダーは既存ユーザーのリプレースでシェアを確保

 ERPはパッケージ化率が84.1%,オーダーシステムが15.9%と,圧倒的にパッケージ主体となっている。オーダーメイドや自前で開発するユーザーは少数派となっている(図1)。

図1●ERPのパッケージ導入率(左)と製品シェア(Nは有効回答数)
図1●ERPのパッケージ導入率(左)と製品シェア(Nは有効回答数)

 製品別の導入シェアでは,上位ベンダーが横一線に並んでいる。トップが大塚商会の「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」(10.3%),2位がオービックの「OBIC7」(9.8%),3位がOBCの「奉行新ERP」(9.7%),4位が富士通の「GLOVIA-C(GLOVIA smartを含む)」(9.3%)。この結果から分かるように,上位4社までほとんど差が無い。上位ベンダーに共通しているのは,オフコン時代からの強力な販売力とサービス/サポート体制,そして既存ユーザーを有していることだ(OBC以外)。自社ユーザーのERPへのリプレースをシェアの基本としていることが分かる。

 今後のパッケージ利用予定を見ると,トップが富士通の「GLOVIA-C(GLOVIA smartを含む)」で13.5%(図2)。続いてOBCの「奉行新ERP」が11.4%で2位,オービックの「OBIC7」と大塚商会の「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」が9.4%で3位に並んでいる。中堅・中小企業向けERPでは製品力に大きな差別化ポイントがないため,販売力と既存ユーザーの有無が決め手になる。その意味では今後も大きな変動要素は少なく,上位4社のシェアは堅調に推移する可能性が高い。

図2●ERP製品の利用予定シェア(Nは有効回答数)
図2●ERP製品の利用予定シェア(Nは有効回答数)

最も熱い「中堅企業」へのERPベンダー陣取り合戦

 ERP導入企業の製品満足度は比較的高い。特に満足度が70ポイントを超えているのが,大塚商会の「SMILEαシリーズ(SMILEie含む)」(75.2),エス・エス・ジェイの「SuperStream」(73.7),OBCの「奉行新ERP」(73.2),オービックの「OBIC7」(71.5)だ(図3)。

図3●シェア上位だったERP製品の満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)
図3●シェア上位だったERP製品の満足度。5段階評価(0,20,60,80,100)の加重平均で算出した(Nは有効回答数)

 シェア上位7製品を見ると,富士通と日本オラクルの製品満足度が70ポイントを下回っているのが目立つ。富士通の「GLOVIA-C(GLOVIA smartを含む)」,日本オラクルの「Oracle EBS」,SAPジャパンの「R/3,mySAP」はいずれも対象とする企業規模が比較的大きく,システム金額も高めという共通点がある。つまり規模の大きなERPシステムほど,満足度が低い傾向が出ている。因果関係はこの調査結果だけでは分からないが,規模の大きなERPに対する期待度と満足度の間には一定の乖離(かいり)があると推定される。

 「中堅・中小企業のERPを導入するホワイトスペース(基幹業務システムのERPリプレース需要)」の市場は十分に残されている。このため,今後も上位ベンダーを中心としたシェア争いが過熱することは間違いない。中堅・中小企業向けERPでは,顧客企業の年商規模別に強いベンダーがある。規模別の下位層は大塚商会とOBC,中位層は富士通とオービックが得意とする。その中で,シェア獲得競争のもっとも熱いゾーンとなっているのが,規模が比較的大きい,いわゆる“中堅企業”向けの市場である。ここでは,住商情報システム,富士通,オービック,NECが,SAPジャパンや日本オラクルなどの外資大手も交えて,壮絶な陣取り合戦を繰り広げている。

 次回は財務会計を取り上げる。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て,98年にノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。07年には中堅・中小企業のIT部門向けQ&Aサイト「シス蔵」をテクネット社と立ち上げた。