2008年2月1日,世界のIT業界に衝撃が走った。米Microsoftが米Yahoo!に買収を提案したと発表したのだ。これを受け,ITproではITpro読者に対する緊急アンケートを実施した。その結果,アンケート回答者の約6割が懸念事項としてMicrosoftのネット・サービス事業における「独占」を挙げた。

 アンケートの実施期間は,2月5日(火)の正午から2月6日(水)の午後11時59分。ITproのサイト上で告知するとともに,メールマガジンの「ITproメール」で協力を呼びかけた。その結果,わずか1日半のアンケート期間にもかかわらず2856の回答を得ることができた。この場を借りて,ご協力いただいた読者の皆さまに厚く御礼を申し上げたい。

 アンケートでは,設問として「MicrosoftがYahoo!を買収することで期待されること,懸念されること」と「インターネットサービスで最もよく利用しているサービス」の2つを用意した。また個別意見を募る自由記入欄も設けた。自由記入欄に意見を記入した回答者は,全回答者数2856人のうちの47%に当たる1336人。改めて,この問題に対するユーザーの関心の高さが感じられた。

 まず,複数回答で聞いた「期待されること,懸念されること」の結果は図1の通りである。冒頭で紹介したように,「ネット上のサービスでもMicrosoftの独占がさらに進む」という回答が59.5%と高い数値を示した。これに,「インターネットサービスの選択肢が減る」(37.1%),「Yahoo!のブランド・イメージが損なわれる」(32.2%)が続く。設問では,期待できる点も選択肢として用意していたが,回答の上位3つがいずれも懸念される点となった。

 一方,期待できる点として設けた選択肢の「競合が激化し,よりよいサービスの提供が期待できる」と「Officeと互換性の高いWebアプリが登場する」は,それぞれ26.5%と26.0%と,4分の1強の回答。「アプリケーション/サービスの無料化が進む」という回答は18.0%にとどまった。また,10%弱ながら「期待も懸念も特にない」という回答もあった。

図1●MicrosoftのYahoo!買収で期待できることと懸念されること(複数回答,有効回答数=2856)
図1●MicrosoftのYahoo!買収で期待できることと懸念されること(複数回答,有効回答数=2856)

 こうした回答の傾向は,自由記入欄の個別意見にも色濃く反映されていた。個別意見で最も目立ったのは,パソコンOSで巨大な力を持つMicrosoftに対する不安感だ。「Microsoftは今でもソフトウエアの独占が問題になっているのに,インターネットの世界に進出してきたらさらに独占が進み,ネットの利便性やサービスの選択肢が減ってしまう」「過去にあったように,何らかの形でMicrosoftが囲い込みを行い,ユーザーの選択肢が縮小する懸念がある」「独自規格のMicrosoft製品に依存するようなサービスを出して囲い込むことが心配」といった意見である。

 また,インターネットのオープン性が損なわれるといった意見も目立った。「過去のマイクロソフトの手法を考えたときに,インターネットのオープン性が損なわれる事態になるのではないかと懸念する」「インターネットのオープン性・標準化が大きく損なわれる危機」などである。

 いくらMicrosoftの力が巨大だとしても,Yahoo!を買収するだけで,ネット事業におけるMicrosoftの独占がすぐに進んだり,ネットのオープン性が損なわれたりするとは現実的には考えにくい。それでも多くの読者は,普段から寡占状態にあるパソコンOSの負の面を強烈に感じているせいか,MicrosoftのYahoo!買収に大きな恐れを抱いているようだ。

 その一方で,Googleへの対抗軸として期待する意見も数多くあった。「今はGoogleの一人勝ち状態なので,対抗できる勢力が出てくるという点では良いと思う」「これが実現すればやっとGoogleへ対抗できるようになるのではないか」「Googleの対抗馬ができることは,競争原理の点から歓迎する」といった意見である。

利用サービスでは10分野中の6分野でYahoo!がトップ

 インターネットサービスの利用動向に関しては,「Web検索」「Webメール」「インスタント・メッセンジャー」「地図サービス」「動画共有」「写真共有」「ポータル・サイト」「携帯向けサービス」「ニュース」「金融情報」の10分野において,最もよく利用しているインターネットサービスは何かを聞いた。ただし選択肢として設けたのは,Google,Microsoft,Yahoo!のそれぞれのサービスだけで,そのほかは「他のサービスを利用/使っていない」という選択肢にまとめた。3社のサービス利用動向を端的に把握するためである。

 そうしたところ,6分野でYahoo!がトップという結果になった(図2)。Microsoftがトップだったのは,インスタント・メッセンジャーだけ。一方のGoogleは,Web検索,地図サービス,動画共有の3分野において利用者が最も多かった。

 Web検索に関しては,日本では一般にGoogleよりもYahoo!の方がシェアが高い。しかし技術者が多数を占めるITpro読者の特性を反映してか,今回の調査結果では,Googleが72.4%という非常に高い数値を示した。動画共有や地図サービスでは,「YouTube」「Googleマップ」という強力サービスが他の2社を圧倒した。動画共有,地図サービスにおいて,Microsoftのシェアは1~2%。MicrosoftがYahoo!を買収しても,すぐにGoogleの対抗勢力になるとは言い難い。

 一方,Yahoo!のサービスで際だっていたのは,Webメール,ポータル・サイト,ニュース,金融情報の分野。いずれも3割を超えており,ニュースにいたっては半数近いユーザーが利用している。特に日本国内において,Yahoo!がポータル・サイトとして人気を集めていることを物語る。

 Webメールは,Yahoo!の「Yahoo!メール」とMicrosoftの「Windows Live Hotmail」を合わせると44.7%となる。単純計算ではあるが,買収が成功してサービスを統合すればGoogleを圧倒することになりそうだ。ただし,ポータル・サイト,ニュース,金融情報においてはMicrosoftの利用ユーザーはさほど多くない。Yahoo!とMicrosoftのサービスを統合したとしても,勢力図に大きな変化はなさそうだ。

 唯一,Microsoftがトップだったインスタント・メッセンジャーに関しては妥当な数値だ。「Windows Messenger」や「Windows Live Messenger」がWindowsパソコンにバンドルされているからである。ほかにMicrosoftで回答が10%を超えたのは,Webメールの「Windows Live Hotmail」だけ。いかにMicrosoftがインターネットサービスで苦戦しているかを,如実に物語っていると言えよう。

図2●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス(有効回答数=2856)
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●Web検索   ●Webメール
図2-1●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/Web検索(有効回答数=2856)   図2-2●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/Webメール(有効回答数=2856)
 
●インスタント・メッセンジャー   ●地図サービス
図2-3●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/インスタント・メッセンジャー(有効回答数=2856)   図2-4●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/地図サービス(有効回答数=2856)
 
●動画共有   ●写真共有
図2-5●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/動画共有(有効回答数=2856)   図2-6●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/写真共有(有効回答数=2856)
 
●ポータル・サイト   ●携帯向けサービス
図2-7●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/ポータル・サイト(有効回答数=2856)   図2-8●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/携帯向けサービス(有効回答数=2856)
 
●ニュース   ●金融情報
図2-9●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/ニュース(有効回答数=2856)   図2-10●インターネット・サービスで最もよく利用しているサービス/金融情報(有効回答数=2856)