IBM ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)は12月7日,日本を含む世界各国企業の人事責任者を対象に実施した調査「IBM Global Human Capital Study 2008」の結果を発表した。日本企業の雇用形態の柔軟性が高まっていることや,人材の分析や評価に必要なデータ分析ツールの導入が進んでいないことなどがわかった。なお,IBCSは人材を企業の知的資産ととらえ,同社では「人財」と表記している。

 調査は,2007年3月から5月にかけて,世界40カ国,400人以上の企業に所属する人事責任者にインタビューしたもの。日本企業約40社の人事責任者も含まれる。

 調査の結果,人事担当者が関心を寄せる4つのテーマが明らかになったという。「変化への適応力の向上」「リーダー不足の解消」「有能な人材の獲得・保持」「人材分析を通じた成長の促進」である。

 自社人材の変化への適応力が「非常に高い」と回答したのは,14%にとどまった。この「非常に高い」と回答した企業の特徴は,「将来必要となるスキルと予測できる」「専門知識のある人材をよく把握している」「従業員相互のコラボレーションが効率的に行われている」という点において,その他の企業を20ポイント近く上回ったことである。

 日本企業の人事責任者だけをみると,「非常に高い」と回答した企業はなく,「適用能力に乏しい」との回答が14%と,グローバルの3%を大きく上回った。

 また76%の回答者が人材育成における最優先課題の1つとして,リーダーシップ能力の開発をあげている。特に,グローバル化が進む製造業は,45%の回答者がリーダー人材の不足に懸念を示した。

人材育成が人材不足に追いついていない

 人材不足のリスクが高まっていることもわかった。人材に関して直面する深刻な課題として,52%の人事責任者は「現在または将来のビジネス・ニーズに応えるためのスキルを持つ従業員の迅速な育成が困難である」と,36%は「従業員のスキルが企業の考える優先事業に適合していない」と回答した。

 一方で,人材育成の手法についても聞いている。「効果が出ている」との回答が多かったのは,「OJT(実地トレーニング)」「社内で行われるクラスルーム型教育」「社外ベンダー/機関によって行われるクラスルーム型教育」「ジョブ・ローテーション」。いずれも時間がかかる取り組みで,人材育成が追いついていない現状が浮き彫りとなった。

 離職率が上昇傾向にあると回答する企業は半数近くに達している。IBCSのヒューマンキャピタル・マネジメント・サービス担当執行役員の三巻由希子氏は,「スキルを迅速に開発することが難しいなら,外部からの人材の獲得や,現状の優秀な人材を保持することに力を入れてもよいのではないか」と指摘する。

 日本では臨時従業員や,退職した社員の再雇用が増えていることもわかった。前者はグローバル回答者の47%が「増加した」と回答しているのに対し,日本の回答者は78%。後者はグローバル回答者の26%が「増加した」と回答しているのに対し,日本の回答者は76%に達した。

 また,アウトソーシングやオフショアリングについても,日本の回答者の「増加した」との割合がグローバルよりも10ポイント以上高く,50%を超えた。三巻氏は,「IT関連の人材に関しては,計画性なくアウトソーシングやオフショアリングを進めるのはリスクが高いので注意が必要だ」とみる。

 最後に,人材分析については,データ活用が情報システムに関連する問題で阻害されていることがわかった。阻害要因として,「人事システムの完成度が低い」(41%)や「人事システムから情報を抽出できない」(28%)などが多くの回答を集めた。

 日本の回答をみると,人材データを活用するための改善策として「データの品質を向上させる」との回答が62%と,グローバルよりも14ポイントも上回った。逆に低かったのは,「データや分析を簡単に分析するためのツールを導入する」で,グローバルの55%に対し,日本の回答は32%だった。三巻氏は,「グローバル企業はデータの整備を終えて,それをいかに活用するかに注目している。日本企業はまだデータ整備の段階にある」と分析する。