携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)が始まってちょうど1年。電話番号を変えずに,契約する事業者を乗り換えられるMNPは,すでに周知のサービスになった感が強い。MNPはこの1年で,携帯電話事業者の勢力図に変化を加える要因になったのか。公表された数字からMNPの1年を振り返ってみたい。

KDDIが圧勝した緒戦

 MNPが始まったのは2006年10月24日。MNPそのものに対するPRや報道に加え,開始直後の申し込み受け付けなどにまつわるトラブルもあり,多くの人の興味を引くスタートだったことは記憶に新しい。番号を変えずに契約する事業者を乗り換える---できることはただそれだけのサービスでありながら,インパクトのある船出だったことは間違いない。

 MNPを待ち望んでいたユーザーが確実にいたことを裏付けるように,サービス開始当初から利用の実績は着実に積み重ねられていった。まず10月の実績は,転出と転入の差し引きでKDDIが9万8300の増加。これに対してNTTドコモは約7万の減少,ソフトバンクモバイルが2万3900の減少という幕開けとなった。

 翌11月は1カ月で,KDDIが21万7500の増加,NTTドコモとソフトバンクモバイルはそれぞれ約16万と5万3900の減少だった。MNP開始当初は,KDDIへの転入が圧倒的に多く,差し引きの数値としては,40日あまりでNTTドコモとソフトバンクモバイルから30万を超える契約がKDDIに流れ込んだことになる。緒戦はKDDIの“一人勝ち”だった。

 その後の流れを明らかにするために,2006年10月から直近にあたる2007年9月までの大手3社のMNPによる契約の増減数をまとめたのが図1である。転入から転出を差し引きした増減の数値であり,利用者の絶対数はこの数値からは計れないが,傾向としては開始当初に大きな利用のピークがあり,年度末で携帯電話販売が大きく膨らむ3月にもう一度ピークがあったことが分かる。

図1●MNPによる増減の推移
図1●MNPによる増減の推移
転入と転出の差し引きの数値を示した。

ソフトバンクモバイルの反撃が始まった

 1年を通してみると,KDDIは常に転入が超過しており,逆にNTTドコモは転出が超過している。大きくNTTドコモからKDDIへというMNP利用の実態が通年で見られるわけだ。一方,ソフトバンクモバイルの数値の挙動は注目に値する。10月のサービス開始から今年3月までは転出が超過しており,文字通りKDDIの一人勝ちが続いていた。これが4月に転入超過に反転すると,その後は快進撃を続けて一度もマイナスになることなく9月までの数値を積み重ねている。5月以降に限れば毎月,前月を上回る転入を確保し,MNPの恩恵をこうむる側の事業者になったわけだ。

 この形勢逆転劇の立役者となったのは,1月に提供を開始した「ホワイトプラン」と,その後の一連のホワイトプラン関連の施策に他ならない。ホワイトプランは,基本料が月額980円で,ソフトバンクモバイルの携帯電話が相手ならば一定の時間帯を除き通話料金がかからないという廉価プラン。3月には,月額980円の料金を追加すれば,ホワイトプランで有料になる部分の通話料金を半額に押さえられる割引サービス「Wホワイト」を追加。さらに6月からはホワイトプランに加入した家族間の通話を24時間無料にする「ホワイト家族24」を加え,割安感をユーザーに強くアピールした。

 この結果,すでに9月にはホワイトプランの申込数が800万を超え,ソフトバンクモバイルの全契約数のほぼ半数に達するまでになった。分かりやすく低廉な料金設定に,印象的なテレビコマーシャルや意欲的な新端末などの相乗効果により,ユーザーが「出て行く」事業者から「入ってくる」事業者へと大変身を遂げたのである。

 MNPの1年で,各社の公表した数値を累計すると,KDDIは119万7000の転入超過,ソフトバンクモバイルは10万5100の転出超過,NTTドコモは108万4100の転出超過という結果になった。もちろん,この数値はKDDIの一人勝ちを示していることは間違いないが,当初のマイナスからトントンにまで実績を持ち直してきたソフトバンクモバイルの健闘が光る。MNPの開始により,ヒットするサービスや端末を提供した事業者への雪崩(なだれ)現象が起こる可能性が指摘されていたが,その一端がここに示された結果となった。