採用予定の通信サービスは機能よりもコスト重視

 同じ光ブロードバンドでも,FTTH,NTT東西や電力系地域通信事業者の広域イーサネット,イーサネット専用線では,それぞれ料金や性能・機能,信頼性などの点で特徴が異なる。このため,ユーザーはそれぞれの要件に合わせてサービスを選んでいる。

 このうちFTTHに関して2007年の調査結果を見ると,ユーザーの高い満足度がうかがえる。FTTHというと料金に焦点が当たりがちだが,機能面の満足度も高い。「FTTHでも大丈夫」と企業ユーザーの意識が変化しているとみていいだろう。FTTHは,今後ますます広がっていく可能性を秘めている。

変わり始めたFTTHに対する意識

 FTTHの満足度を示したのが前ページの図1だ。各アクセス回線ごとの満足度を調べるため,「現在使っている通信サービスを見直さない理由」の回答と,幹線系主力通信サービスのアクセス回線の結果をクロス集計した。

図1●幹線系アクセス回線(光ブロードバンド)別に見た企業ユーザーの満足度
図1●幹線系アクセス回線(光ブロードバンド)別に見た企業ユーザーの満足度
通信サービスを見直さない理由として,FTTHを使う多くの企業が機能面と料金面で満足していることを挙げた。

 この集計を見ると,FTTHを幹線系主力通信サービスのアクセス回線として使っている企業ユーザーの47.8%と半数近くが「料金面で満足している」と回答している。同様に47.0%が「機能に満足している」と答えた。FTTHの機能とは,回線の実効スループットなどだと考えられる。「信頼性,セキュリティ面で満足している」という回答も20.7%に上る。

 FTTHに対するユーザーの意識も変化している。今日現在でIP-VPNと広域イーサネットを使っているユーザーに幹線系主力通信サービスを採用した理由を聞くと,「信頼性・通信品質」が一番に挙がる(図2)。ただ,「今後導入予定のサービス」について重視するポイントを聞くと,「通信コストを抑えられる」という回答が最も多くなる。

図2●利用中の通信サービスと今後採用予定の通信サービスの選択理由(幹線系)
図2●利用中の通信サービスと今後採用予定の通信サービスの選択理由(幹線系)
IP-VPNや広域イーサネットでは,利用中のサービスの選択理由は「信頼性・通信品質」がトップ。採用予定の選択理由になると「通信コストを抑えられる」という理由が最も多くなる。
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 もちろん,企業ユーザーが機能や品質,信頼性を重視しなくなったわけではない。機能や品質,信頼性は現在使っているサービスで十分満足している。次はそれらを今よりも安価に利用したい──。そう考えるユーザーが増えているのである。

 例えばコニカミノルタ ホールディングスは,主要拠点40カ所と関係会社や支社など250社を結ぶ巨大なWANをグループ全体で展開している。現在はKDDIの「Powered Ethernet」とソフトバンクテレコムの「ULTINA Wide Ethernet」の二つのサービスでWANを二重化し,マネージド型インターネットVPNを併用している。その同社も,今後のネットワークの候補の一つにフレッツ・グループを含める考えである。「コストとバランスを考慮すると,フレッツ・グループも十分選択肢に挙がる」(同社 IT業務改革部の紀太章マネージャー)という。

「落ちない」広域イーサをバックアップに

 こうした意識の変化がはっきり現れているのがバックアップ回線の考え方である。

 例えば産業機器などの専門商社である日伝は,幹線系の主力通信サービスとしてNTTコミュニケーションズの広域イーサネット「e-VLAN」(旧クロスウェイブ・コミュニケーションズの「広域LANサービス」を導入している。)そのアクセス回線は128kビット/秒のデジタル専用線である。

 日伝が広域イーサネットを主力とする理由は,メインフレームで処理している業務系データを流しているからだ。ただ同社では,この広域イーサネットに情報系ネットワークのバックアップ回線の役割を持たせている(図3)。従来であれば高価で信頼性が高い網のバックアップとして,別の網を用意するのが一般的だった。だが安価で高速なFTTHの台頭により,事情が変わってきた。

図3●Bフレッツ+インターネットVPNを広域イーサネットでバックアップする
図3●Bフレッツ+インターネットVPNを広域イーサネットでバックアップする
電子機器商社の日伝は,平常時は基幹系システム用のネットワークで使っている広域イーサネットを,Bフレッツ+インターネットVPNのバックアップ回線に使う。
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 日伝は自社で構築したインターネットVPNを情報系ネットワークに使っている。アクセス回線は一部地域でフレッツ・ADSLを使っているものの,ほとんどの拠点はBフレッツである。広帯域を活用し,添付ファイルが付いたメールなどの情報系データをやり取りしている。だが「夜中の2時,3時に(フレッツが)止まることがある」(日伝 情報システム部情報システムグループの山田洋専門課長)という。

 そこでフレッツ網側のトラブルで情報系ネットワークが止まった場合は,ルーターが自動的に広域イーサネット側へ経路を切り替えるように設計した。「広域イーサネットの方が落ちない」(同氏)からだ。実際同社は,過去にフレッツ網のトラブルで,情報系ネットワークが広域イーサネット側に切り替わった経験を持つ。その際,一部エンドユーザーから「遅くなった」という声が挙がったものの,業務が止まることはなかった。

 電子メールをはじめとする情報系ネットワークは,いまや業務遂行のために欠かせない。ただコスト面から考えれば,気軽に広域イーサネットの高速なメニューを採用するわけにはいかない。そこでFTTHの活用が解になっているのである。

 この傾向は,インターネット接続回線の増速という観点からも見て取れる。インターネット接続では,既に多くの企業がFTTHを視野に入れ,接続回線の増速を進めている。調査の中で「インターネット接続回線容量の増量および増量予定の理由」を尋ねたところ,399社中140社が「コストを増やさず増量が可能」と回答した(図4)。

図4●インターネット接続回線容量の増量および増量予定の理由
図4●インターネット接続回線容量の増量および増量予定の理由
増量理由のトップは「コストを増やさず増量が可能」であること。2006年度に増量した,もしくは増量予定の企業399社が回答した。

 今回調査した1162社中53.4%の企業は,2007年のネットワーク関連投資額を「ほぼ前年と同額」と回答。ユーザー企業は,限られた予算で環境の変化に対応しなければならない。これらの企業にとって,低コストで高速なネット環境を手に入れられるFTTHはうってつけだ。

NGNを「知っている」が6割期待する機能はQoS

図5●企業ユーザーのNGN(次世代ネットワーク)に対する意識
図5●企業ユーザーのNGN(次世代ネットワーク)に対する意識
NGNを「聞いたことがない」という企業ユーザーが3割弱。NGNについて「聞いたことがある」企業ユーザーは「通信品質を細かく設定できる」といった機能に期待している。
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 2007年の調査では,初めてNGN(次世代ネットワーク)についての設問を用意した。その結果,61.0%の企業がNGNを「聞いたことはある」と回答した(図5)。NGNの知名度は高いといえる。だが知っていることと実際の利用意向は異なる。

 前述の日伝はNGNに関する設問で「聞いたことがあり,理解している」と回答した企業の1社。だが自社導入については,「現在使っている広域イーサネットやデジタル専用線と同等以下の料金」(日伝の山田専門課長)を条件に挙げる。むしろ同社はBフレッツの安定性向上に期待している。

 KDDIの「Powered Ethernet」を使って幹線系ネットワークを構築しているミズノは,広帯域化に伴いテレビ会議システムを主力拠点に導入した。そのためNGNについては動画などに対する帯域の優先制御を期待している。とはいえ「実際のサービスが出てこないと分からない」(ミズノ 情報システム部の松井志信専任次長)というのが正直な感想だ。

 NGNのサービス・メニューや料金体系が出てくるのはこれから。このため,企業ユーザーはNGN導入には慎重な姿勢を見せる。企業ネットの更新について「NGNのサービスを前提に計画中」「NGNの実像が明らかになるまで現サービスを継続利用」と回答した企業は308社。このうち84.1%の企業は「利用中のサービスと同水準かそれ以下」の料金をNGNのサービスに期待している。

調査概要

回答企業のプロフィール