電話の分野では,外線IP電話サービスとIP電話機の利用が着実に進んでいる。外線IP電話サービスの導入企業は昨年の15.7%から21.3%に増加,IP電話機は10.9%から14.1%に増えた。ただ,傾向はどちらかというと停滞ムードで,導入率は「踊り場」を迎えつつある。

 これに対し,拡大傾向にあるのがモバイル内線電話。導入率は昨年の27.0%から30.7%に伸びた。中でも導入が進んでいるのが無線LAN搭載携帯電話である。背景としては,新規導入と合わせて構内PHSからの乗り換え需要が拡大していること,ユーザーの不満が緩和されてきたことが挙げられそうだ。

固定電話
拠点間VoIPは下り坂に

 2007年の調査では,IP電話導入の停滞ムードが鮮明になった。典型的なのが拠点間VoIPの導入率。昨年までは上昇を続けてきたものの,2007年は前年の37.8%から37.3%とわずかではあるが減少した。「導入予定+検討中」も20.1%から17.8%に下がっている。

 冒頭に述べたように,外線IP電話サービスの導入企業は増えている。ただ,「導入予定/検討中」と答えた企業は昨年の20.2%から14.6%へ,5.6ポイントも減少(図1)。導入済みと導入予定を合わせるとほぼ横ばいという状況である。「分からない/無回答」とした企業も17%から14%に減少。「予定なし」と答えた企業は47.1%から50.1%に増加し,2008年の停滞ムードを暗示する結果となった。

図1●拠点間,外線電話,および内線電話システムのIP化状況
図1●拠点間,外線電話,および内線電話システムのIP化状況
拠点間VoIPの導入率はほぼ横ばい。外線IP電話は導入が急増,内線のIP化は例年並みの増加 率となった。
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 これまで拡大基調にあったIP電話機にも同様の傾向がうかがえる。この1年で導入済みの割合は増えたが,「導入予定+検討中」の企業は22.2%から16.7%に減少。この2年間約50%で推移してきた「予定なし」は,54.6%に達した。

モバイル内線電話
こなれ始めたデュアル携帯

 モバイル内線電話に目を向けると,「導入済み」が2006年度調査の27%から30.7%に上昇している。「導入予定+検討中」のユーザーは9.6%から7.9%とわずかに減少しているが,「導入済み」と「導入予定+検討中」の企業を合算すると,36.6%から38.6%と全体として市場が広がる傾向にあることがわかる。

 このうち「導入済み」と回答した企業が選んだ端末の回答は,PHSから携帯電話機への世代交代を印象付けるものだった(図2)。

図2●モバイル内線電話システムの導入状況と端末の種類
図2●モバイル内線電話システムの導入状況と端末の種類
構内PHSの減少分を吸収する形で無線LAN搭載携帯電話機および携帯電話機の採用が進んだ。

 携帯電話分野では2007年,PHSや携帯電話による内線電話システムを取り巻く環境が大きく変化した。PHSではNTTドコモが2008年1月7日の停波を決定。同社製PHSのユーザーには,外線契約なしで構内専用端末として使い続けるか,ウィルコム製PHSや携帯電話への乗り換えがより切実な検討課題となった。

 一方では,モバイル・セントレックスの先駆けとなった第3世代携帯電話(3G)/無線LANデュアル端末「N900iL」に後継機として「N902iL」が加わった。バッテリーの持ち時間や操作性など不満が集中していた点が改善され,ユーザーの導入が始まりつつある。

 こうした状況を受けて,モバイル内線電話では構内PHSから無線LAN搭載携帯電話への世代交代が始まろうとしている。今回の調査結果ではPHSの導入率は87.4%。まだまだ圧倒的な人気を集めている。ただ,導入済み357社が主力として採用する端末の種類を見ると,PHSの導入率は3.8ポイント低下している。これに対して無線LAN搭載携帯電話機は3ポイント増。携帯電話機は0.5ポイント増と,PHSの減少分を吸収した格好になっている。

 とはいうものの,PHSに関するユーザーの満足度は低くない。例えば,モバイル内線電話の導入済み357社にそれぞれのシステムについての不満や不安を聞いたところ,PHSユーザーのうち60社が「特にない」と回答した(図3)。ユーザーにとっては,構内PHSを内線専用端末として利用し続けるという選択肢もあり,この場合は,将来性もそれほど気にならない。実際,PHSに関して「将来性に不安」と回答した企業は52社で,不満が「特にない」と答えた企業60社より少なかった。

図3●導入端末別のモバイル内線電話システムに対する不満や不安
図3●導入端末別のモバイル内線電話システムに対する不満や不安
PHSは将来性への不安を抱くユーザーがいる一方で,特に不満がないユーザーも多い。無線LAN搭載携帯電話機のユーザーは端末の価格を挙げた。
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 モバイル内線システムの導入を検討中のコニカミノルタ・グループは,端末の種類を決めかねている1社。グループのIT基盤を統括するコニカミノルタ ホールディングスIT業務改革部の紀太章マネージャーは,「無線LAN搭載携帯電話機や携帯電話機など評価を進めているが,現場は現在利用中の構内PHSに固定電話と同等の安心感を持っている」と話す。

携帯でのデータ通信が伸長

 携帯電話分野では,データ通信用端末の利用動向にも変化がある。モバイル内線電話システムの動向と同じく,データ通信の分野でも携帯電話機の伸長が目立つ(図4)。具体的には,PHSのPCカード型端末の導入率が昨年より13.8ポイントも低下した一方で,携帯電話の音声端末は4.4ポイント,同PCカード型端末は5.2ポイント,携帯電話機全体で9.6ポイント増加した。HSDPAの実用化で高速通信が可能になったこと,スマートフォンの登場,イーEモバイルのような新しいプレーヤーの登場が後押ししていると言える。

図4●データ通信端末の導入状況と端末
図4●データ通信端末の導入状況と端末
導入,導入予定/検討中のユーザーが減少。端末はPHSから携帯電話機への移行が進んだ。
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写真1●イー・モバイルのHSDPA対応PCカード型携帯電話端末「D01NE」
写真1●イー・モバイルのHSDPA対応PCカード型携帯電話端末「D01NE」
最大3.6Mビット/秒の高速通信を売りにデータ通信市場におけるシェア獲得に注力している。

 具体的には,2007年に携帯電話機,データ通信カードともHSDPA対応端末が増え,下りで実効速度1Mビット/秒超のモバイル通信が珍しくなくなった。13年ぶりの新規参入事業者となったイー・モバイルのHSDPAで「5980円定額」のデータ通信サービスも始まった( 写真1)。さらにNTTドコモが同社のPHSユーザーに全機種無料で携帯電話へ移行できる救済措置を進めていることもあり,高速なデータ通信が必要な企業を中心に携帯電話へのシフトが起きているようだ。

 スポーツ用品メーカーのミズノは,ソフトバンクモバイルのHSDPA準拠のデータ通信カードを導入した1社である。情報システム部の松井志信専任次長は「生産拠点への出張や全国各地で開催されるイベント支援など,モバイルで高速かつ安価なデータ通信の必要性が高まってきた」と説明する。

 ただ,相次ぐ情報漏えい被害を背景にノート・パソコンの持ち出しを禁じる企業が増えたためか,データ通信自体の導入率は下がっている。データ通信カード自体の導入率は,2006年の40.8%から36.8%に減少。一方で,「導入予定+検討中」と回答したユーザーは8.8%から10%とわずかながら増えている。不要な企業は導入を止め,必要な企業は積極的に導入を予定または検討する,という構図が見て取れる。今後,携帯端末の情報漏えい対策がどこまで充実するかによって,利用動向は変化しそうな雲行きだ。

調査概要

回答企業のプロフィール