総務省
総合通信基盤局事業政策課

 人口10万人以上の自治体では,すべての自治体でFTTHサービスが利用可能であるのに対し,1万人未満の自治体では2割足らずしか利用できない──。「平成19年版情報通信白書」が示すデータだ。

 ブロードバンドが全国に普及しつつある中,最先端の超高速サービスであるFTTHの地域格差が鮮明になっている。2007年3月末に880万契約を突破し,前年度比61%増の伸びで急成長するFTTHサービスについては,このような地域格差を考慮し,地域毎にきめ細かく競争状況を観察する必要がある。

関東,東海,近畿を中心にFTTH整備が進展

 まず,FTTHを含むブロードバンドの全国的な整備状況を確認しておこう。2007年3月末における都道府県別のブロードバンド利用可能世帯数は4863万世帯となり,全世帯の95%に達した(図1)。

図1●ブロードバンド・サービス利用可能世帯数(都道府県別)
図1●ブロードバンド・サービス利用可能世帯数(都道府県別)
グラフの中の数値の単位は万世帯。事業者情報,国勢調査データなどに基づき推計した。
[画像のクリックで拡大表示]

 だが,残り5%の247万世帯はまだブロードバンド・サービスが全く利用できない「ブロードバンド・ゼロ地域」となっている。また,FTTHサービスの提供状況を見ると,東京都,神奈川県,大阪府のように既にFTTHの世帯カバー率がほぼ100%に達しているところがある一方で,岩手県,秋田県,新潟県,富山県,島根県,高知県のように,60%に届かないところがある。全体的に,関東,東海,近畿の各地域ブロックに加え,宮城県,広島県,福岡県など地域経済の核となっている県でのFTTHサービスの世帯カバー率が高くなっている。

 このように,最先端のブロードバンド・サービスであるFTTHの利用可能性については,都市と地方の格差,いわゆるデジタル・デバイドが存在する。これを早急に解消するために,希望すれば誰でもサービスを利用できるような供給サイドの環境を整備することが政策的な課題となる。ただし,情報通信インフラの整備は“官”ではなく,“民”主導が原則である。競争政策によりFTTH事業者間の市場競争を促進しつつ,市場の補完として補助金や税制などの各種支援措置を講ずることが基本となる。

 そこで本記事では,供給側の状況を示すFTTHの利用可能世帯数ではなく,現存のFTTH市場における需要情報に基づき,事業者間の競争状況の地域毎の差異を解説する。

FTTH市場でNTT東西のシェアが約7割に

 まず,FTTH市場全体の競争状況を概観しよう。FTTH市場における事業者別シェアの推移を見ると,1位のNTT東西はそのシェアが急増し,2007年3月末で69.0%に達した。2位の電力系事業者のシェアは10.0%と低下傾向にあり,NTT東西との差は次第に拡大しつつある。3位のKDDIは,2007年1月に東京電力のFTTH事業などを統合したことに伴い,6.6%のシェアを獲得。4位のUSENは6.2%となり,シェアの低下が続いている(図2)。

図2●FTTH契約数の事業者別シェアの推移(全国)
図2●FTTH契約数の事業者別シェアの推移(全国)  [画像のクリックで拡大表示]

 次に,FTTH市場を,戸建て住宅向けと集合住宅向けに分けて分析する。戸建て住宅の場合は,引っ越しなどによる解約が比較的少なく,長期的にサービスを利用する安定顧客を確保できる可能性が高い。だが,各戸に回線を引き込む必要があることから,事業者側の大規模な投資や利用者側の初期費用が相当程度必要となる。一方,集合住宅の場合は,需要密度が高いことから,一度に多数の顧客を確保できる可能性が高く,設備投資の効率が上がり,利用者側の初期費用も抑えやすいと考えられる。

 このような背景から,FTTHサービスは,戸建て住宅向けと集合住宅向けで料金が異なるのが一般的であり,参入事業者の構成も異なる。そのため,総務省の競争評価では両者を区別し,FTTH市場の部分市場としてそれぞれ評価している。

 戸建て住宅向けと集合住宅向けに分けたFTTH契約数による事業者別シェアの推移を見ていくと,戸建て住宅向けについては,NTT東西および電力系事業者の事実上の複占状態(2企業体による占有状態)にあったことが分かる(図3)。2007年3月末にはKDDIが東京電力のFTTH事業の統合により3位に登場した。なお,NTT東西のシェアは,2006年度中に緩やかに上昇を続け,78.1%にまで達している。

図3●FTTH契約数の事業者別シェア(集合住宅向け/戸建て住宅向け)
図3●FTTH契約数の事業者別シェア(集合住宅向け/戸建て住宅向け)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方,集合住宅向けについては,1位のNTT東西のシェアが急増し,2007年3月末で56.9%に達した結果,2位のUSEN(13.5%),3位のKDDI(7.3%),4位の電力系事業者(5.4%)を大きく引き離している。NTT東西は,戸建て住宅向けサービスで8割近いシェアを維持しつつ,集合住宅向けサービスにも経営資源を振り向け,FTTH全体でのシェアを約7割にまで高めてきている。