組織内のコミュニケーションをITで活性化させようという動きが始まって久しい。確かに,グループウエアや企業情報ポータル(EIP)といったソフトが登場したことで,情報共有と業務の効率化は進んだ。しかし,社内の情報共有やコミュニケーションについては依然,課題や問題が指摘されている。最近「社内ブログ」や「社内SNS」という言葉が聞かれるのは,そうした現状の反映ともいえるだろう。

 いま,企業はどんな問題や課題を抱えているのか。そしてITに望むものは何か。IT情報サイト「ITpro」と日経BP社出版局は,10月にアンケートを実施。252人から頂戴した意見から,社内コミュニケーションの実態が浮かび上がってきた。

8割近くが「ノウハウの共有ができていない」

 まず,「現在社内の情報共有やコミュニケーションがうまくいっているか」を聞いた。「うまくいっている」もしくは「どちらかといえばうまくいっている」と答えたのは3割にとどまった(図1)。一方,「どちらかといえばうまくいっていない」と答えた人は5割を占め,「うまくいっていない」と答えた人も2割いた。現在の状況に不満を抱いている人が「多数派」である。

図1
図1 社内の情報共有やコミュニケーションがうまくいっているか

 では,情報共有やコミュニケーションのどんな面に困っているのか。8割近くの回答者が「ノウハウの共有ができていない」と答えた(図2)。個々人はそれぞれノウハウを持っているものの,それを組織として生かしきれていない――こう感じている人が圧倒的に多いようだ。

図2
図2 社内の情報共有やコミュニケーションで困っていること

 続く回答は「別の部署の情報が入ってこない」で5割を超えている。しばしば「縦割りの弊害」などと言われるが,縦割りの組織構造が情報共有の点で問題になっている現状がうかがえる。

 「情報の膨大さや,仕事の多忙さがコミュニケーションの弊害となっている」。こう声を上げる人も少なくない。「報告や伝達のメールが大量になり処理しきれなくなる」,「引継ぎ事項の漏れがよくある」,「忙しくて部署内の対話が不足する」と答えた人も2割以上いた。

だからこそ「社内ブログ」「社内SNS」に期待

 次に,現在情報共有のためにどんなITツールを利用しているかを聞いた(図3)。「電子メール」が94.4%とほとんどの回答者が挙げた。次に「グループウエア」(64.3%),「掲示板」(46.8%),「企業内情報ポータル(EIP)」(30.2%)と続く。多くの企業で,情報共有のためにITを何らかの形で活用していることがわかる。

図3
図3 現在社内で利用しているITツール

 一方,「社内ブログ」(15.1%)や「ナレッジ・マネジメント・ツール」(11.1%)など,より情報や知識の共有に主眼を置いたツールを挙げた人は少数派。まだツールとして出てきて日の浅い「RSS」や「社内SNS」はそれぞれ6.7%,3.2%にとどまっており,まだ普及が進んでいない現状を示している。

図4
図4 今後社内で利用してみたいツール

 今後社内で利用してみたいツールを聞いてみたところ,「社内ブログ」が5割近く,「社内SNS」が4割弱だった。企業外部のインターネットの世界で人気のあるツールやサービスを,社内でも使ってみたいという希望があることがわかった(図4)。これに「企業内情報ポータル(EIP)」(31.7%),「ナレッジ・マネジメント・ツール」(28.2%),「RSS」(20.2%)が続く。

ノウハウの共有に効果あり

 このように,「社内ブログ」を利用してみたいという回答は特に多かった。社内ブログへの期待をもう少し明らかにするために,「どのような活用方法に効果があると考えられるか」を聞いた。6割以上の人が「ノウハウを共有する『ナレッジブログ』」と答えた(図5)。ノウハウの共有ができていないという現状の不満を反映した結果と言えるだろう。

図5
図5 効果があると思う社内ブログの活用方法

 続く回答が,「プロジェクトで情報を共有するチームブログ」(54.0%),「部署をまたいだ『たばこ部屋』のような雑談ブログ」(45.2%)である。そのほか,「社長・役員ブログ」(25.0%),「社内教育のための対話ブログ」(20.6%)も,2割前後の人が挙げた。

 忙しくなるととみに不足するのが情報共有とコミュニケーション。しかし,情報共有とコミュニケーションが不足し,途端に「破綻」へと向かったプロジェクトは世に数多くある。カジュアルさが漂うブログへの期待が高まっている理由には,情報やノウハウの共有に対する渇望感があるようだ。

調査概要
 2006年10月6日から10月19日の間に,日経BP社の「ITpro」で実施。サイト閲覧者252人から有効回答を得た。調査企画・実施はITpro編集部と日経BP社出版局が共同で行った。  アンケートの回答者の6割は,情報システムやソフトウエアに携わる仕事をしている。情報システム・ソフトウエアの「企画・開発」に携わる人が34.4%,「導入・運用」に携わる人が26.9%。  それ以外の商品やサービスの「企画・開発・調査」が15.0%,「営業・販売」が5.9%。そのほか,経理や総務などの「間接部門」が6.7%,「広報・宣伝」が3.2%,企業の経営者は3.2%だった。  年齢層は,35歳~39歳が25.8%,40歳~44歳が25.4%と多く,20~29歳が10.3%,30歳~34歳が17.1%,45歳~49歳が11.9%となっている。

アンケート回答者の声

社内ブログに期待と不安

 現場からは最近,掲示板に替わるコミュニケーションツールとしてブログを希望する声が上がっている。グループウエアでは機能が多く,何をどのように利用するかが分かり難い反面,ブログは利用目的がはっきりとしているからなのだろう。
【35~39歳,情報システム・ソフトウエアの企画・開発】

 情報共有の仕組みを作ったとしても,社内に情報を自発的に発信する風土がない。気軽に投稿できるブログは風土改革の良いきっかけになると思う。
【45~49歳,情報システム・ソフトウエアの企画・開発】

 ブログにより社内コミュニケーションが活性化するという意見は理解できるが,「情報発信」の意味を取り違えて仕事そっちのけになる社員が出てきたり,建設的な意見を発信する社員に対して経営陣が「仕事をしないでブログばかり書いている」と誤解したりする危険性がある。
【40~44歳,総務や経理などの間接部門】

情報流通を促す仕組みが必要

 当社ではグループウエアの掲示板にノウハウなどが積極的に書き込まれている。だが,分類機能が貧弱なために,せっかく蓄積された情報が活用されていない。分類の基準は人それぞれなため,うまく活用できるように情報を蓄積するのは難しいと感じている。
【25~29歳,情報システム・ソフトウエアの企画・開発】

 当社共通の企業内ポータルサイトのほかにも,部署によっては別のグループウエアを使っています。確認する場所が多くなり,だんだん見なくなっています。
【30~34歳,情報システム・ソフトウエアの導入・運用】

 グループウエアなどのITツールは,導入当初は目新しさもあって大いに利用される。だが,次第に利用されなくなる。継続して使ってもらえるように運用するのは難しい。
【35~39歳,情報システム・ソフトウエアの企画・開発】

 プロジェクトで忙しさがピークになると,個々のコミュニケーションがバラバラに行われるようになり,情報の「一本化」が困難になってくる。だからこそコミュニケーション・ツールを活用しなければならないのだが,メンバー同士の意識の差異があるため,十分に活用されていないのが現状である。
【40~44歳,情報システム・ソフトウエアの導入・運用】

 提供した情報の貢献度に対してインセンティブがあるべきではないかと思っています。特に開発部門や営業部門でこの傾向が強いのですが,「ノウハウを他に教えるのはいやだ」,あるいは,「文字にするのは苦手だ,話せば済む」といった“言い訳”で,グループウエアへの書き込みを拒否しています。自らの情報提供を拒む割には,他人の書き込みを自分の業務に利用しているようです。
【45~49歳,情報システム・ソフトウエアの企画・開発】

 当社のオフィスは複数の建物に分散して入っているので,コミュニケーションがスムーズではない。雑談から生まれてくるアイデアや改善がほとんどない。物理的な距離感が組織の活力を奪っているのではないかと最近感じている。
【30~34歳,情報システム・ソフトウエアの導入・運用】