過去4回に渡り,「基幹系業務アプリケーション」「グループウエア」「クライアントPC向けセキュリティ・アプリケーション」「資産管理アプリケーション」の現状と今後について述べてきた。これらを踏まえると,業務アプリケーションの今後の傾向として以下の3つのポイントが浮かび上がってくる。

ポイント1:モジュール化

 業務アプリケーションは次第に多機能化が進み,そのカバレッジの範囲を広げる方向で進化し続けている。ワークフローや文書管理などを取り込んで情報系業務アプリケーションのプラットフォームに変化したグループウエア,情報漏えい防止やポリシー制御の機能を備えた資産管理アプリケーションなどがその例である。その結果,個々のアプリケーションはスイート製品に含まれる「モジュール」に位置付けを変えつつある。

 スイート製品はセキュリティのように網羅性を求められる場合には有効であるが,情報系アプリケーションの場合にはごく一部の機能しか利用されずに機能過多の状態に陥る恐れもある。ベンダーとしては各モジュールの機能や役割を明確にすると共に,様々なニーズに適合したモジュールの柔軟な組み合わせを提示することが求められる。

ポイント2:サービス化

 基幹系業務アプリケーションのSaaS形態での利用やクライアントPC向けセキュリティ・アプリケーションにおけるクラウド活用といったように,業務アプリケーションのサービス化も徐々に進みつつある。業務アプリケーションにおけるSaaSやクラウドの活用では,「自社内運用 or 社外に預ける」といった二者択一の議論に終始してしまいやすい。だが,SaaSやクラウドのメリットが享受できる個所のみをサービス化するという折衷案もあって良いはずだ。実際,第3回で紹介した「クラウド型セキュリティ」はその具体例である。

 あるいはCO2排出量を表示する「カーボン・フットプリント制度」がより広い商材に適用されるようになった時,生産管理システムの機能の一部として,調達した原材料およびその搬送過程に由来するCFP値を算出するサービスを活用するといったケースも想定できる。搬送過程も含めたCFP値の算出は個別企業が実施するには負担が大きい。そこで複数企業からのデータを集積し,算出された基準値を各社で共有するという発想が生きてくる。このように今後の業務アプリケーションでは「適材適所でのサービス化」が徐々に進んでいくのではないかと予想される。

ポイント3:エージェント化

 クライアントPCにインストールするクライアント・アプリケーションはスタンドアロン形態からクライアント/サーバ形態,さらにはブラウザやリッチ・クライアントといったように次第に軽量化する傾向にある。これはクライアント・アプリケーションが自身でデータを保持して処理を行う役割から,サーバーの集合体に対して処理を依頼する「エージェント」へと役割を変えてきているととらえることができる。

 もちろん,技術的な観点では運用管理と利便性(GUIの使い勝手)に起因した歴史的な経緯(クライアント/サーバ形態からWebアプリケーション,さらにリッチ・クライアント・アプリケーションへの進化)が背景にある。しかし,業務アプリケーションに求められる役割を省みた時,クライアントPC内にデータを保持することはセキュリティ面だけでなく,迅速かつ正確なデータの処理と共有という観点からもネックとなる可能性が高い。そのため,業務用途のクライアント・アプリケーションではエージェント化が次第に進んでいくものと考えられる。

 上記の3つのポイントをまとめると,「モジュール化ないしはサービス化されたいくつかの機能を適切に呼び出し,それをユーザーに分かりやすい形でエージェント化されたクライアント・アプリケーションが表示する」という形態が業務アプリケーションの将来像として浮かび上がってくる()。

図●業務アプリケーションの将来像
図●業務アプリケーションの将来像

 ユーザー企業の業務アプリケーションの多くがこのような形態に進化するまでにはかなりの時間を要するだろう。そこで,この動きを加速する要因となりうるのが仮想化技術だ。仮想化はサーバー/クライアントの運用管理負荷やセキュリティ対策といったユーザー企業が今日抱える課題に対する有効な解決策となりうる。そして,サーバー/クライアントPC双方において仮想化が進めば,ソフトウエアはハードウエアから独立して管理されるようになる。インストールされる場所が特定されなくなれば,業務アプリケーションを構成する要素の疎結合化が進み,結果としてモジュール化/サービス/エージェントが促進されることになる。

 厳しい経済環境の下では価格を抑えたピンポイントでのソリューションに目が向いてしまいやすい。だが,そういった単機能の業務アプリケーションを数多く抱えることは,中長期的な運用管理コストを増大させるだけでなく,将来における戦略的なIT活用の阻害要因にもなりかねない。上記で述べたような将来像を念頭に置きつつ,中長期的かつ俯瞰的な視点で業務アプリケーションの導入・運用を検討することが重要である。