業務アプリケーションをはじめとする企業の基幹システムへ取り組むIT担当者にとって,マクロ的視点から見たこれからの活動テーマは,今後の市場環境の変化を鑑みると以下の3つに集約される。

  • 固定的ITコスト削減
  • 投資対効果の再点検
  • グローバリゼーションへの対応

 一方で,新しい技術のイノベーションから上記とは別の方向性が考えられる。それは「‘持つ’ITから‘利用する’ITへの移行」であるが,こちらは別の機会に譲るとして,本稿では前記の3つについて解説したい。

場当たり的に導入してしまったアプリケーションはないか?

 まずは,固定的ITコスト削減である。ITコストは大きく分けて保守・運用など法規制対応といった固定的ITコストと,収益性や業務効率向上のための戦略的IT投資の2つに分かれる。IT活動の結果を財務諸表のようにBS(貸借対照表),PL(損益計算書)というわかりやすい軸で評価すると,固定的ITコスト削減はBSの資産,PLの費用に位置する。

 多くの企業ではこれまで業務パッケージの導入を通じて,アプリケーションの最適な配置がある程度は進んでいる。とはいえまだホスト・コンピューターの仕組みと,オープン系,Web系というアーキテクチャの世代が混在するのが実態である。それ故,固定的ITコストが高止まり,もしくは膨張し続けている。過去アクセンチュアが実施した「ハイパフォーマンスIT調査」によると,日本企業の平均の固定的コストは76%と,欧米企業の53%に比較して高い。すなわち戦略的,前向きなIT投資に対して力がそそがれておらず,ITによる企業能力の差という観点では益々広がる懸念がある。

 固定的コストを削減するには,まず,業務システムを中心とするアプリケーション層全体を俯瞰(ふかん)した上で,重複機能の削減,利用されない部分の廃止,サービスレベルの再点検を行い,資産をオフバランス化するなどして将来のビジネスの方向性とアラインする形で,最適化・シンプル化,もしくはSOA(service oriented architecture)へと向かう方向性を立てる。この方向性に従って,長期間継続した活動をすることが,その他のハードウエアやネットワーク,通信費,人件費といった大部分の固定的ITコスト削減へ貢献する唯一の方法である。根っこのアプリケーションが複雑なままではそれに付随する周辺コストが下がるはずもない。

 これまでのビジネスの成長スピードに合わせて実施してしまった場当たり的な対応を反省し,一度きちんと立ち止まり,企業グループ全体がもつIT資産と費用を隅々まで整理し,テーマと優先順位を精査した上で固定費削減のためのロードマップを描くことが必要である。‘100年に一度’は,こうしたITの見える化のいいチャンスでもあり,ITガバナンスを取り戻すきっかけにもなる。今までやろうともやれなかった大胆な発想と打ち手を求められているわけだから,またとない機会である。