ストレージ選びにおいて欠かせない最も重要なポイントは,企業にとって重要なデータを格納するということだ。そのためストレージには,サーバー機やネットワーク機器以上に,可用性が重要になる。ここで,「どこまで可用性を求めるのか」という命題によって,ハイエンドからミッドレンジ,ローエンドまで,購入するストレージのクラス(価格)が決まる。

 かつてのストレージ選びでは,容量と性能によってクラスと価格が決まっていた。大容量で高速なストレージほど高価という具合だ。ユーザーも,必要とする容量と性能に応じて,購入する製品を決めていた。ところが,時代は流れた。現在では,可用性で判断する時代となっている。可用性がクラスと価格を決定付けるのである。一方で,容量や性能はシステム部材に過ぎず,拡張コストの計算も容易だ。そもそも,映像配信などの特定業務を除けば,過度な容量や性能を要求するケース自体が少ない。

 ただし,可用性が価格を決定付けると言われても,言われたほうはスッキリしない。分かりにくいからである。各社のハイエンド・ストレージの機種名や価格帯は知っているものの,では,それらのハイエンド機種がミッドレンジ機種やローエンド機種と比べて具体的に可用性がどう異なっているのか,という問題は,難しい。腰を入れてベンダーや製品を選ぶ必要がある。

ベンダー・サポートと運用管理機能がストレージ選びの両軸

 可用性の重要さを踏まえた上で,もう少し具体的にストレージ選びのポイントをまとめると,大きく2つの視点がある。1つは,ベンダーのサポート力である。ストレージ・ベンダーや導入SIベンダーが,ストレージの初期導入時にどれだけサポートしてくれるのか,さらに,数年後などの将来に渡って高品質なサポートを提供し続けられる見込みがあるのか,という問題である。

 もう1つのストレージ選びのポイントは,ストレージ製品が備える技術面/機能面の要素である。スナップショットなどの各種のデータ・コピー機能,ボリューム容量仮想化のシンプロビジョニング機能,データ重複排除機能,など,各種の運用管理機能が,製品を特徴付ける要因となっている。ストレージ製品が内蔵する,こうした“運用管理ソフトウエア機能”は,日々進化を続けている。

 サポートと機能はともに重要なポイントではあるが,ストレージ・ベンダーによってそのアプローチは異なる。一般的に,日本のコンピュータ・メーカーであれば機能よりもサポートを重視しており,北米など外資系ベンダーであれば,サポートよりも先進機能の積極的な取り組みが目立つ,という傾向がある。

接続I/Oの違いは価格帯(可用性)のすみ分けにつながる

 求める可用性に応じてストレージ製品のクラスが決まる一方,ストレージとしてのコア機能の違い,つまり,サーバー機から見たストレージ・インタフェースやプロトコルの違いは,ストレージ選びにとって,一つの大きな選択要素となる。

 一般的なストレージ接続方式であるブロック・レベルでのアクセスでは,サーバー機から直接SCSIやSASのケーブルでつなぐDAS(ダイレクト接続ストレージ)製品や,FC(Fibre Channel)やiSCSIなどのSAN(ストレージ用ネットワーク)で接続するSAN製品などがある。一方で,ファイルを手軽に管理したいケースなどでは,ストレージ製品側でファイル・システムを提供するNAS(CIFSやNFSのファイル・サーバー機)を購入する。

 実は,コア機能の違いによって,ある程度の守備範囲のすみ分けがなされている。具体的には,FC製品はハイエンド製品が目立ち,逆にiSCSI製品はローエンドやミッドレンジ側から展開が始まりつつある,といった傾向がある。一方で,NASはローエンドからミッドレンジが主たる市場である。また,コントローラ部にFCもiSCSIも収容しNASとしての利用も可能なマルチプロトコル製品の場合,ミッドレンジが主な守備範囲となっている。

すでに成熟期にあるiSCSI,まだまだこれからのFCoE

 現在注目の技術/機能としては,iSCSIが成熟期に入ってきており,急速にシェアを拡大する兆候をみせている。FCよりも安価なSANソリューションとしての価値は既に欧米では認められ,日本でもベンダーが改めて本腰を入れるようになった。コスト効率の高い中小規模の環境を求めるユーザーは,iSCSIを検討対象に含めるべき時代になっている。アーリー・アダプター(製品の登場初期に採用する人)の時代は過ぎ去っており,iSCSIはもはや,普及期に入った普通のストレージである。

 一方で,FCプロトコルを次世代イーサネット上に載せるFCoEは,接続検証実験の段階であり,少なくともストレージを専門とするベンダーからはまだ製品が登場していない。現状ではFC専用機器となっているネットワーク機器やHBA(ホスト・バス・アダプタ)をイーサネット・ベースの製品に置き換えられるため運用管理コストの低減効果などが見込めるが,まだ注目技術の域を脱しているわけではない。

シンプロビジョニングとデータ重複排除がホット・トピック

 iSCSI以外には,シンプロビジョニングとデータ重複排除が,現在注目されている実用機能である。

 シンプロビジョニングは,ストレージ使用率を下げるという着眼である。用意している物理ストレージ量を超える論理ボリューム容量を設定/運用できるようにする機能を指す。ストレージ統合を進めているユーザーは,この機能を導入することによってアプリケーションごとに空き容量を管理するのではなく,装置全体で空き容量をアプリケーションに無駄なく割り当てていくことできるようになる。この機能は,当初少数の新興ベンダーから提供されるにとどまっていたが,大手ベンダーのいくつかからも,シンプロビジョニング機能が提供されるようになった。

 データ重複排除は,データ・バックアップやデータ・アーカイブなど,データの保存用途において,格納データ量を小さくする次世代の圧縮機能である。データの重複部分を削除しデータ量を小さくする手法はベンダーによって異なり,そのために必要となるCPUへの負荷も様々であるため,導入に際しては事例の確認や慎重なテストが必要になる。格納データ量は場合によっては20分の1程度を見込むことがでいるため,例えばWAN(通信回線)を経由して遠隔地にバックアップ・データをレプリケーションするといった使い方が現実的になる。

 データ重複排除機能を搭載した代表的な製品には,この機能に特化したアプライアンス製品や,NASストレージ製品, VTL(仮想テープ装置)製品,バックアップ・ソフトウエアなど,サーバー機にインストールして使うソフトウエア製品がある。

鈴木 雅喜(すずき まさき)
ガートナー ジャパン
リサーチ
ITインフラストラクチャ
リサーチディレクター
鈴木雅喜

ストレージ関連ベンダーで設計・開発・事業企画に携わった後,1997年,ガートナー ジャパンに入社。ストレージ分野の市場調査,技術動向調査,ユーザー調査を通じて得た知見を生かし,幅広い見地からベンダー,ユーザーの双方にアドバイスを提供している。岐阜大学工学部卒。