センサーの小型化も進む

 センサーの省スペース化は大きく二つの方向性がある。一つはセンサーの面積を小さくする方向。指をすべらせて使うライン・センサーがこれに当たり,すでにノートパソコンや携帯電話に搭載されている。

 もう一つが,表示デバイスと指紋センサーとを一体化する方向だ。一体化すれば,きょう体に指紋センサー用のスペースを設けずに済む。これは,透過型の光学式センサーを液晶パネルの上に重ね,一つの装置に液晶表示機能と指紋センサー機能を両立させたものである(図3)。

図3●液晶パネルと一体化した指紋センサー
図3●液晶パネルと一体化した指紋センサー
液晶パネルの上に透過型の指紋センサーを配置し,通常の画面表示機能と指紋認証機能を兼ね備えるデバイス。
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【静 脈】
情報量の「手のひら」,小型の「指」

 現在実用化されている静脈認証は撮影する部位によって大きく三つに分かれる。手の甲,手のひら,指である。いずれも静脈のパターンを撮影し,分岐を基にして静脈の長さや角度などを数値化する。三つの方式のうち,注目が集まっているのが,銀行ATMで採用された手のひらと指である(図4)。

図4●手のひら静脈認証と指静脈認証
図4●手のひら静脈認証と指静脈認証
静脈認証は,静脈を流れる還元ヘモグロビンが近赤外線光を吸収する性質を利用する。手のひらや指に近赤外線光を照射すると,静脈のパターンが黒く映る。静脈パターンの分岐点をもとに,血管の長さや座標,角度などを数値化する。手のひらの静脈は反射光を利用して撮影するのに対し,指の静脈は透過光を利用する。それぞれメリット(図中の◎),デメリット(図中の×)が指摘されている。
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 両方式を比較した場合,取得できる情報は手のひらの方が多い。また手のひらだと血管が太いため,低温下で血管が収縮してもさほど影響がない。これに対し指静脈のベンダーは,指でも問題ないと説明する。指静脈の情報量は個体を識別するのに足る情報量だという。また,低温下での精度についても,照合できなかったという報告はないとしている。

 装置は,指静脈の方が小型化が進んでいる。指静脈は撮影する面積が小さいため,センサーは最小で縦4×横2cm程度と小型。開発当初は上から照射するため装置が大きめだったが,指の横からに方向を変えて小型化を図った。一方,手のひら用のセンサーも,以前は縦7×横7cmなどと大きめのセンサーだったが,最近はマウスの中に静脈センサーを内蔵し,手をかざすだけで認証が行えるマウス型の手のひら静脈認証装置も登場している。

【虹 彩】
サイズとコスト,使い勝手が課題

 虹彩(アイリス)認証では,装置の小型化および低コスト化が開発の焦点となっている。コストを下げるにはカメラの制御機構を簡素化する必要があるが,使い勝手が損なわれかねない。日本人は目が細い人が多く,カメラの位置合わせ精度が悪いとすんなり認証できないといった事態が起こる(図5)。

図5●虹彩認証で使うデータ
図5●虹彩認証で使うデータ
目で色のついた部分のうち,瞳孔の周囲が虹彩である。虹彩は瞳孔を動かす筋肉部分で,この筋肉のパターンをコード化して照合用データにする(松下電器産業の資料を基に作成)。
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 こうした事情はあるものの確実に低コスト化は進んでいる。例えばあるベンダーは製品価格を従来の半分にするため,カメラの調節機構を簡易にしてユーザーが手動でカメラの向きを調節するようにした。自動調節する場合に比べ,慣れていないユーザーは位置合わせに時間がかかるが,安く導入したいというユーザーに対して,機能を割り切った製品を投入した。

 また,カメラの自動位置合わせ機能はそのままで,価格を半分にしたベンダーもある。コストを下げるために,各部品を見直して安価なものに交換したり,部品点数を減らすなどした。また,従来製品では複雑だったカメラ機構を簡略化したことで照合時間は半分になったという。