バイオメトリクス認証は,生体の一部や動作の特徴を使って本人を識別する認証方式のこと。生体認証とも呼ばれる。かつては研究所など高いセキュリティが要求される施設で使われることがほとんどだったが,最近はかなり身近なものになってきた。例えば,現在では多くのノート・パソコンや携帯電話端末に指紋認証装置が搭載されている。また銀行ATMへの導入例も増えてきた。
社会的認知度が高まるなか,バイオメトリクス認証の技術開発は,かつてないほどの熱を帯びている。古くからある「指紋」や「虹彩(アイリス)」,中堅どころから突如最前線に飛び出した「静脈」,ブレークを狙う「顔」などバイオメトリクス認証といってもさまざまだ(図1)。いずれもセキュリティ確保と利便性の両立を図り,安心・安全の社会を支え得る技術として,ヒト・カネ・モノが投入されている。
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図1●バイオメトリクス認証で研究されている部位や動作 指紋や静脈といった静的な生体情報以外に,声紋や署名,歩き方など動的な生体情報(動作)を使う認証方法が研究されている。バイオメトリクス認証に使うには,普遍性,唯一性,永続性の三つの要素が必要といわれている。 [画像のクリックで拡大表示] |
バイオメトリクス認証のポイントは使い勝手の改善,精度の向上,装置の小型化,コスト削減の四つだ。ここでいう精度の高さとは,他人を受け入れたり本人を拒否する誤認証が少ないことを指す。
例えば,導入実績が多い指紋認証技術は,どんな利用環境でも安定的に正しく認証される点に開発の焦点が当たっている。静脈認証は装置の小型化,虹彩認証は使い勝手とコスト低減を両立する装置の開発が求められている。顔認証は照明の影響や経年変化への耐性を高めるなど,基本的な精度を向上させる段階にある。
【指 紋】
センサーとアルゴリズムの改良進む
利用件数が頭抜けて多いのが指紋認証装置である。それだけに,現場で使う際の精度を確保することと,センサーの省スペース化が大きなポイントとなっている。
精度の確保については,センサーと照合アルゴリズムの両面で開発が進んでいる。指紋センサーは,濡れた指や手荒れなどで乾燥した指,汚れた指などを読み取るのが苦手だ。製品によって差はあるものの,光学式だと濡れた指や汚れた指の検知に時間がかかったり,読み取れないことがある。静電容量方式や周波数解析方式,感熱式センサーになると,濡れた指はほぼ読み取れない(図2)。
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写真1●非接触指紋センサーの例 |
一方,照合アルゴリズムについては,主流の方式を見直す動きが出てきている。これまでの主流は,指紋の分岐や切れ目を特徴点として抽出する特徴点抽出方式(マニューシャ方式)。指紋画像を重ね合わせて一致度を見るパターン・マッチングに比べ,照合時に指の置き方が大きく変わっても照合できるのが大きなメリットだ。ところが,指紋の形状が特殊だったり指が荒れたりして,特徴点をとりづらい場合は照合できない。
こうした特徴点抽出方式の弱点に対し,画像をマッチングさせ,マッチング部分の位置の関係を照合に使うアルゴリズムが登場した。このアルゴリズムであれば,肌荒れなどに強くなるうえ登録拒否も少なくなる。経時変化への対応にも効果があるという。今後は照合速度を速めることが課題だ。