「オンメモリー・データベース」を採用して,大容量データベースの処理性能を劇的に向上させたユーザー企業が出てきている。すべてのデータをストレージではなく,サーバーのメモリー上に置き,処理速度を改善。これまで「作れなかったシステム」を実現できるようになった。技術志向のベンチャーが相次いで製品を出し,安価に大容量データベースを処理したいユーザーがリスクをとって採用に動いている。(岡本 藍=日経コンピュータ

 「システム統合を3年前から考えていたが,データベースの処理性能に限界があったため実現できなかった。オンメモリー・データベース製品に出会い,これを採用したことで,10億件の販売データを翌日すぐに分析できるシステムを構築できた。『システム統合は無理』,『実績のない新技術を使うのは無茶』と言われたが,思い切って取り組んだかいがあった」(ある食品スーパー)。

 この食品スーパーが扱う販売実績データの総量は約10億件。10億件のデータを自由かつ多角的に分析するために,大容量データベースを高速処理する仕組みが必要だった。そこで同社は,オンメモリー・データベースを採用した。オンメモリー・データベースは,メモリー上にすべてのデータを置いてディスク装置にアクセスしないため,高速処理が可能となる。

 この食品スーパーは,自社のPOS端末を使って得た販売データを日々送信し,統合データベースに書き込んでいる。食品スーパーの仕入れ担当者は翌日から直ちに,前日から400日前までの販売実績データを使って分析ができる。自社のデータ1000万件程度を抽出して分析する場合,結果が戻ってくるまでの応答時間は3秒以内である。

 これに対し,一世代前のシステムは前日のデータをすぐ分析できず,担当者は翌々日まで待たなければならなかった。「すぐ分析したいという要望があったが,旧システムは,3秒という応答性能を確保するために,多くの中間ファイルを作成しており,バッチ処理に時間がかかっていた」(同社)。オンメモリー・データベースを使う新システムは高速処理が可能になり,中間ファイルを作るバッチ処理は原則として行わない。

ベンチャーが製品化,ユーザーの採用始まる

 オンメモリー・データベースのコンセプトは,10年以上前から提唱されていた。ここにきて製品の利用が進んできた理由はいくつかある(図1)。何といってもハードウエア価格が下がったことが大きい。オンメモリー・データベースの本質は,メモリーを存分に使って性能を出すことにあるからだ。

図1●オンメモリー・データベースの普及が始まった理由
図1●オンメモリー・データベースの普及が始まった理由

 オンメモリー・データベース技術に強い思い入れを持つ技術志向のベンチャー企業が,実用に耐える製品を出してきたことも大きい。あるオンメモリー・データベース・ベンダーは,「ITの世界を一変させるという思いで,オンメモリー・データベースを開発した」と語る。また別のベンダーは,「64ビット空間と低価格なメモリーを前提とした新時代へのパラダイム・シフトを起こす」と強調する。