ルーターの持つIPパケットの転送機能をハードウエア化し,大幅に高速化したネットワーク機器がレイヤー3スイッチである。従来は大企業の基幹ネットワークがおもな活躍の場だったが,今やあらゆる場面で利用されている。(高橋 健太郎=日経NETWORK

 レイヤー3スイッチ(L3スイッチ)には,二つの共通項がある。一つは,従来のルーターに比べて,IPパケットを大幅に高速転送できる点。もう一つは,ルーターの機能とレイヤー2スイッチ(L2スイッチ)の機能を一つのきょう体に収めている点だ。

 外観上,L3スイッチ製品は2種類のタイプに分けられる。箱形のボックス型と,たくさんのスロットを備えたシャーシ型である。

ポート数が決まっているボックス型

 ボックス型は,初めから必要な機能を内蔵していて,あとから追加する必要がない。原則,LANポート(イーサネット・ポート)の数をあとから増設することはできない。LANポートの種類は100Mイーサネットが多いが,最近はギガの製品も出ている。バックプレーンの帯域(スイッチ全体のパケット転送能力)は,10Gビット/秒前後になる。

 きょう体の大きさで見ると,ボックス型は比較的小さい。たいていは標準的なラックの大きさに合わせて作られている。

必要なカードを追加するシャーシ型

 シャーシ型は,たくさんのスロットを備えるシャーシ(きょう体)と,そのスロットに差し込むカードで構成する。このカードにはいくつかの種類がある。とくに重要なのは,LANポートが付いているライン・カードと,ライン・カード同士を接続したり機器全体を制御したりするコントロール・カードである。また,シャーシの下部には電源用の大きなスロットがある。たいていは冗長化のために複数の電源を取り付けられる。このような冗長化によって信頼性を高めているのも,シャーシ型の特徴である。

 シャーシ型の大きさを見ると,高さが50cm程度の中型製品と,1m近くある大型製品がある。

 中型製品は,100Mイーサなら数百ポート,ギガ・イーサなら数十~100数十ポートまで付けられる。バックプレーンの帯域は数十G~数百Gビット/秒になる。

 大型製品の場合,サポートするのはギガ・イーサ以上という製品が珍しくない。ギガ・イーサなら数百ポート,10ギガ・イーサなら数十ポート付けられる。バックプレーンの帯域は,数百G~1Tビット/秒に達する。

さまざまなネットワークで活躍

 小型から大型までさまざまなサイズの製品がそろっているL3スイッチは,その規模に応じてさまざまな場面で使われている。

 小さいオフィスでは,パソコンを直接収容するLANスイッチを束ねる役割を果たす。大きなオフィス・ビルの場合なら,フロアのLANをL3スイッチでまとめ,ビル全体をさらに大型のL3スイッチでまとめる。データ・センターなどで多数のサーバーを束ねたり,通信事業者が広域イーサネット・サービスを提供したりする目的にもL3スイッチが使われている。

 このようにあらゆる場所で活躍するL3スイッチだが,従来のルーターを完全に置き換えたわけではない。インタフェースの種類が豊富なルーターに比べて,L3スイッチはイーサネットに特化して価格を抑えている側面が強い。このため,イーサネット以外のインタフェースを使うWAN回線では,ルーターが使われるケースが多い。

さまざまな付加機能を備える

 冒頭で,L3スイッチのことを「ルーター+L2スイッチ」と説明したが,実際の製品はどのような機能を備えているのだろうか。もう少し具体的に見てみよう(図1)。

図1●最新のレイヤー3スイッチが備える機能
図1●最新のレイヤー3スイッチが備える機能
レイヤー3スイッチが備える基本機能は,MACフレームやIPパケットの転送処理,VLAN(virtual LAN)の構築である。さらに,フィルタリングやQoS,認証などの付加機能を備えている。

 ルーター機能は,IPパケットの転送処理のことを指す。一方のL2スイッチにおける基本機能は2種類ある。一つは,MACフレームを転送する機能のこと。もう一つは,VLANと呼ばれる仮想的なLANを構築する機能である。

 こうした基本機能以外に,各メーカーごとに工夫した付加機能が備わっている。代表的な付加機能としては,不正パケットなどを遮断するフィルタリングや,IP電話の音声パケットなどを優先したり帯域を保証したりするQoS(Quality of Service)がある。最近では,L3スイッチにつながる端末を認証する機能や,端末に電力を供給するPoE(Power over Ethernet)と呼ぶ機能を搭載するL3スイッチが増えている。