1組のキーボード,ビデオ・ディスプレイ,マウスで複数のパソコンやサーバーを操作する装置がKVMスイッチである。小型のパソコン切り替え機としてなじみのある装置だが,今では離れた拠点にあるサーバーのリモート管理やシン・クライアントを実現する新しい機器としても活用されている。今回はKVMスイッチのしくみから利用方法までを探る。(高橋 健太郎=日経NETWORK

 一人のユーザーが複数のパソコンを利用する場合,キーボードやマウス,ディスプレイは1組あればよい。むしろ1組だけの方が場所を取らないし,コストの節約にもなる。こうしたときに活躍するのが「KVMスイッチ」である。

 「KVM」とは,キーボード(K),ビデオ・ディスプレイ(V),マウス(M)の頭文字から作った言葉で,それら1組から複数のコンピュータを切り替えて操作するための装置ということになる。

 まずは,具体的なイメージをつかむために,「パソコン切り替え機」という名称で売られている小型製品を概観してみよう。例に挙げるKVMスイッチは,4台のパソコンを接続できるタイプである(図1)。表側に,キーボード用とマウス用のPS/2ポートが一つずつ,裏側にディスプレイ用のVGAポートが一つ備わっている。

図1●KVMスイッチの基本的な使い方
図1●KVMスイッチの基本的な使い方
実在する小型KVMスイッチを例に,基本的な接続構成を示した。1セットのキーボード,ビデオ・ディスプレイ,マウス(KVM)から,複数台のパソコンやサーバーを操作する。この製品では,最大で4台のマシンを切り替えられる。  [画像のクリックで拡大表示]

 このKVMスイッチの裏側には,最大4台のパソコンを接続するための四つの専用ポートがある。ここには先がVGAやUSBに分かれている専用ケーブルをつなぐ。その専用ケーブルの先には,切り替え対象となるパソコンをつなぎ込む。

 一方,もっと大型のKVMスイッチは,何十台ものサーバーを切り替えながら操作する場面で用いられる。さらに,最新の製品は,インターネットを経由して離れた拠点のサーバーを管理したり,情報漏えいなどを防ぐためのセキュリティ・ソリューションを実現したりするためのキー・デバイスにまで進化している。

 なお,キーボード,ビデオ・ディスプレイ,マウスの1セットはコンピュータを操作する端末という意味から「コンソール」と呼ばれる。以降でもこの呼び方を使うことにする。

切り替え台数と通信距離で分類できる

 手始めに,いろいろなKVMスイッチのラインナップを一望してみよう。

 KVMスイッチの分類にはさまざまな切り口が考えられるが,「切り替え可能なコンピュータの台数」と,「コンソールから操作対象のコンピュータまでの距離」という二つの軸で見るのがわかりやすいだろう。

 この二つの軸でKVMスイッチを大まかに分類すると,(A)「小型・短距離製品」,(B)「中型・短距離製品」,(C)「大型・中距離製品」,(D)「長距離製品」の4種類に分けられる。

 (A)の小型・短距離製品は,デスクトップに置いて使うタイプで,2~4台のパソコンやサーバーを切り替える。ボックス状の製品が多いが,ケーブル状の低価格製品もある。距離はPS/2やUSB,VGAケーブルを延長できる5m程度である。

 (B)の中型・短距離製品は,サーバー・ルーム内でサーバーを切り替えるのに使う。切り替えられるサーバーの台数は8~16台程度である。距離は同じく5m程度になる。

 (C)の大型・中距離製品は,切り替え対象のサーバーまでの距離を100~300mまで延ばしたものだ。この製品を使うと,サーバー・ルームの外部からサーバーを操作できる。また,機器当たりのサーバー接続用ポートの個数が多くなる。1台のスイッチに最大64台のサーバーを接続できる製品もある。

 (D)の長距離製品は,ネットワーク経由でサーバーを操作するKVMスイッチである。インターネットを介したリモート操作が可能で,距離に制限はない。2000年ごろに登場した比較的新しいタイプの製品である。この製品によって,KVMスイッチを利用して拠点間のサーバー管理ソリューションを実現できるようになった。

 なお,(A)の小型・短距離製品の価格は1万~5万円である。その他の製品は,ポート数や機能によってバラつきがあるが,例えば16ポート・タイプが5万~10万円,32ポート・タイプが30万~40万円といった価格になる。