日本一有名な業務改善活動と言えば、トヨタ自動車の「カイゼン」だろう。同社にはおよそ60年続く「創意くふう提案制度」があり、現場から会社に対して毎年多数のカイゼン提案が提出される。とりわけトヨタの生産部門はカイゼン提案の宝庫であり、製造業を中心に多くの企業が同社の業務改善ノウハウを学びに来る。トヨタOBに学ぶ企業も後を絶たない。

 華やかで巧みなマーケティング戦略で注目を集めることが多い資生堂も、トヨタのカイゼンを学んだ1社だ。トヨタの創意くふう提案制度の運用実態を見学に行った後、2006年6月に「知恵椿提案制度」を導入した。これは、社員が自発的に業務改善に取り組んで成果を出したら、上長を通じて会社に報告する制度。ここで言う「成果」は、売り上げ増、利益増、コスト削減、顧客満足向上など、会社の業績に直接的・間接的に貢献したものを指す。

 知恵椿提案制度の四半期ごとの提案件数は、現在まで毎回1万2000~2万件程度の間で安定的に推移し、盛り上がりを見せている。営業担当者や美容部員を含む販売部門、生産部門、本社・関連会社、研究・開発部門の社員が万遍なく提案している。

 いわゆる業務改善活動は一般に、開始当初は盛り上がるものの、半年から1年も経過すると改善のネタが尽き、形骸化することが多い。営業部門や本社部門などと比べると改善活動が長続きする傾向の強い生産部門であっても、「改善発表会のための改善」に陥るケースが目立つ。記者が過去に取材した製造部門出身者の中には、「発表会で表彰されるために、ある時期だけわざと手を抜き、その後で5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動を徹底した」と明かす人もいるくらいだ。

 それではなぜ、資生堂の業務改善活動は形骸化せずに済んでいるのか。その答えは、トヨタにカイゼン手法を学びに行ったのではなく、「カイゼンを継続するコツ」を学びに行った点にある。手法自体をまねしても社風や仕事の進め方や組織構造などが違うので、応用するのは簡単ではない。だから、手法は自社の各部門が考えることにし、会社全体としては「継続のコツ」をトヨタに学ぶべきだと考えたのだ。

 資生堂が「継続のコツ」としてトヨタに見習うべきだと感じた点は多い。主なものを挙げると、(1)優れた提案をした社員を経営会議のような場で褒める、(2)提案の優秀度合いでポイントを付け、少額でいいので報奨金を出す、(3)入社1~3年目のうちに提案する癖をつけさせる、(4)その時に会社が注力する戦略と改善提案制度をキャンペーンという形で連動させる、(5)提案のハードルを高くしすぎない――である。また、資生堂が独自に考案した継続策もいろいろある。資生堂はこれらを着実に実践してきた。

 この具体的な方策は、日経情報ストラテジー9月号(7月29日発売)の特集記事「業務改善の継続で成果を上げる」で紹介した。同特集記事には、全社員に毎日127文字以内で日々の気づきを提出させる「三行提報」という仕組みを30年以上運用し続けているサトー、TSUTAYA全1400店弱の9割を占める加盟店の独自の知恵を引き出し横展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)、本家トヨタのカイゼンの手法と着眼点を焦らずじっくりと浸透させてきたトヨタファイナンスなど、十数社の業務改善事例が登場する。

 ユニ・チャームの高原豪久社長、ローランド・ベルガーの遠藤功会長、カルマンの若松義人社長、ワーク・ライフバランスの小室淑恵代表取締役、リンクアンドモチベーションの藤崎雄三フェローなど識者の意見も多数盛り込んだ。いずれも「継続のコツ」が満載である。不況下で多数の企業が実施している全社コスト削減活動の担当者にもたくさんの気づきをもたらすのではないか、と自負している。