ここ最近,筆者の周りで話題になっているのが,“ITの認知度”である。IT業界からすると,「こんなに一所懸命にいろんなことに取り組み,情報システムを構築・運用しているのに,評価されないどころか認知度さえ低下しているのではないか」というのだ。

 サービス化が進展するなかで,ITの存在がだんだん見えづらくなるのは自然の成り行きだろう。しかし,IT業界で働く人たちの意欲までが低下するとなれば問題だ。認知度を高めるためには,システムがどう動いているかについて,IT技術者がもっと“楽しく”説明する必要があるだろう。

認知度を高めようとしてきたか

 IT分野中心といっても,記者の取材先はさまざまだ。肩書きはもちろんのこと,受託開発からコンサルティング,パッケージやサービスの開発・販売,あるいは業種特化型や保守専業など幅広い。もちろんユーザー企業にもお邪魔する。取材開始時は,各社が持つ得意分野や新製品,ITの利用方法などについて話しているのだが,だんだんと「ITの価値とは」といったことに話題が移る。それが最後には,「ITは認知されていないのではないか」といった議論につながっていく。

 ITの認知度が低いと嘆く人が増えた背景には,昨今の経済不況下でIT投資への締め付けが厳しいことや,IT業界育成のための補助金が出にくくなっていることなど,金銭面での課題が大きくなっていることがある。だが,一般には,「IT技術者が,これだけ働いているのに,他業界のように認められないのはなぜか」といった意識のほうが大きい。

 そもそもIT業界は,自らが期待するほどに,その価値が一般に認知されたといえる時期があったのだろうか。かつて,理工系大学の就職担当者が口にした,「半導体も,ベンチャーも,商社のような会社も,みんな“IT”。どんな会社がどんな仕事をしているのか,SE(システムエンジニア)やプログラマって何をする人なのか,どれもよく分からない」といった声のほうが,世間一般のイメージに近いだろう。IT業界は,認知度向上に向けて積極的に働きかけてきたとは言い難い。

同じ会社でも“隣は何をする人ぞ”

 先日も,顧客満足度(CS)をテーマに,あるシステムインテグレータを訪れたところ,「CS活動の推進チームがとても盛り上がっている」という話になった。その理由を聞けば,顧客からの評価を公正に聞き取るために,あえて担当外の顧客を訪れるようにしたところ,技術者たちが「当社は,こんなシステムも作っていたのか」と新たな発見にわくわくしているからだ,という。社内でも“隣は何をする人ぞ”だったわけだ。

 業界内にいても,同僚や他社のIT技術者がどんな仕事をしているのかを,十分に認識していないのだから,世間一般の認知度が低くても仕方がない。

 IT業界では,技術的な専門性を求められることや,業務によって勤務形態が異なるといった環境にある。それだけにIT技術者は,技術分野別や業種別,業務別,顧客別などに分かれやすく,他分野のことが視野に入りづらいとはいえるだろう。古くから「コンピュータは分かってもネットワークは分からない」など,テクノロジの壁が指摘されてきた。それが今は,データベースや仮想化,携帯電話やセキュリティなどに専門化・細分化されているのだからなおさらだ。

 こうした専門化・細分化は,IT技術者をさらに世の中一般から遠ざけることになるのではないか。ITそのものではなく,そこから生まれる価値の利用者からすれば,専門的な話には興味がわかないからだ。