少し前まで「景気の『底』が見えてきた」「最悪期は脱した」と、連日報道されていた。しかし、ここにきて日経平均株価は冴えない。一時は1万円を超えたものの、今はまた9000円台前半に甘んじている。市場は「将来を不安視している」。

 2009年4-6月期の売り上げは1-3月期に比べて若干回復したものの、ピーク時の7~8割といった状態だ。1-3月期における極端な減産の反動と、思い切った景気刺激策を実施した中国の内需に助けられたもので、欧米市場が回復するメドが立っていない現状では、とても楽観視できるはずもない。

 5割減産が珍しくないほど落ち込んでいる自動車メーカーや電機メーカーを尻目に、昨年は過去最高益を更新した大手消費財メーカーも、今年に入ってからの低価格競争の影響や少子高齢化で縮小する国内市場に対する危機感から、本格的な再編に向けて動き出した。キリンホールディングスとサントリーホールディングスが経営統合を検討しているというニュースは象徴的だ。

早く手を打てるかどうかが、苦境脱出の鍵

 「経営とIT新潮流」サイトで半年以上にわたって展開してきた企画コラム「トップインタビュー 大淘汰時代を勝ち抜く」)で、先進企業の経営者から「100年に一度」という世界的な金融・経済危機に対する問題意識と対応策について聞いてきた。キヤノン電子の酒巻久代表取締役社長は、単なる景気後退ではなく、「恐慌である」と言い切った。だからこそ、このままだと売り上げが半分になってもおかしくないと考え、最悪な事態を想定して徹底したコスト削減に取り組んだ。

 酒巻社長の対応は早かった。派遣社員との契約を更新せず、2008年中に正社員だけの体制にした。派遣社員が手がけていた仕事はすべて正社員が引き継いだ。続いて正社員の生産性を向上させるべく、作業スピードを速めるトレーニングを実施した。外注制作費を極力ゼロに抑えるために、積極的に内製化を進めた。その結果、2009年12月期第1四半期は、売上高が約6割(60.9%)まで落ち込んだものの、1億700万円の営業利益を計上した。赤字転落は回避でき、踏みとどまった感じだ。2009年12月期通期でも32億円の営業黒字を見込んでいる。

 IT(情報技術)活用による染色技術を持つ大手繊維メーカー、セーレンの川田達男代表取締役社長 兼 最高経営責任者も、今年2月に取材した時に「不況から恐慌になりそう」としつつ、「この未曽有の危機はこれまでの繁栄の100年と、次の100年の変わり目だろう」との認識を示した。そのうえで「まずは徹底したコスト削減などの自己防衛をして足元の危機を乗り越えること。事態は深刻なので、これはできるだけスピーディーにやらなければならない」と指摘した。セーレンは今期(2010年3月期)、14期ぶりの営業赤字を見込んでいるが、徹底したコスト削減によって4億5000万円程度の赤字にとどめようとしている。

 2社に共通しているのは、経営トップの危機意識の高さと手の打ち方の早さだろう。製造業に限らずここ1年、日本企業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。現状を正確に把握し、適切な処置を早く打てるかどうかにかかっている。

まずは値下げ、次に予約の強化

 「リーマン・ショック以降、お客さんの行動は、9.11米同時多発テロのような大きな事件が起きた時の行動パターンに近かった。経済的な問題で売り上げが落ちたのは初めて。2週間は落ちこんだ」

 こう振り返るのは、寿司店「がんこ」や和食店、料亭などを運営する、がんこフードサービス(大阪市、2008年7月期の売上高は228億円)常務の新村猛・管理本部兼業務改革本部本部長だ。リーマン・ショック以降売り上げが落ちるなか、すぐに実施したのは値下げだった。「幹部がすぐに集まって、800~1000円だったランチの売価を200円下げて600~800円にした」(新村常務)という。

 この値下げが功を奏して、店によってはランチの売り上げが2割アップ。平均して5~6%向上して夜の落ち込みをカバーしたという。次に力を入れたのは予約。とにかく席を埋めることで夜の売り上げ減を食い止めた。「今年4月には数千万円の増益になった」(新村常務)

 この間、手を打つのが遅れた外食産業の多くは経営難に陥った。がんこフードサービスのように早めに手を打ち、売り上げの落ち込みを最小限に抑えたところは少ない。がんこフードサービスの場合は、ITを積極的に活用し、日々の売り上げ、客数、客単価といった経営指標を正確につかめるほか、メニューの改訂も素早く対応できる体制を敷いている。そのうえで、まずランチの値下げを実施し、次に夜の予約を強化することで客数を確保し、極端な売り上げ減を防いだ。