不況のあおりを受けて,「資格」を取得する機運が高まっているように思う。例えば,今年4月に実施された情報処理技術者試験の応募数は,7年ぶりに増加に転じた(関連記事)。

 資格取得について考えたとき,頭によぎるのは「その資格は役に立つのか?」とか「取得するメリットがあるか?」といったことではないだろうか。資格を取得すると報奨金が出たり,それが昇進の条件になっている場合はわかりやすい。それが“目に見える形のメリット”だからだ。

 筆者はこれまで,いくつかの資格試験を受けてきた。そして今後もできるだけ受けてみたいと思っている。もちろん不合格になるケースは多いし,たとえ合格しても報奨金や昇進といった目に見える形のメリットはない。それでもやってみようと思うのは,「挑むこと自体にメリットがある」と感じているからだ。ここでは,実際に筆者が感じた資格取得の“目に見えないメリット”を書いてみたい。

全体が見えると安心できる

 ITと一口に言っても,その勉強範囲は果てしなく広い。ネットワーク,データベース,プロジェクト・マネジメントなど,特定のジャンルに絞ったとしてもまだ広い。そのため入社して間もないころは,よく「どんなことをどれだけ勉強すればいいのかわからない」という気持ちになった。

 筆者の場合,こうした気持ちを払拭するのに資格試験の勉強が役に立った。たいていの資格試験は学ぶべきことが体系立てられており,試験対策の参考書には学ぶべきことが網羅されている。つまり資格試験に取り組むことで,そのジャンルにおいて,学ぶべきことの全体像が見えるわけだ。

 もちろん,資格試験の勉強が学ぶべきことのすべてではないだろう。ただ,「このジャンルは,何をどれだけ知っていれば基本はOKと言えそうだ」という見通しがわかると,勉強をする上で気が楽になる。

頭の中にインデックスができる

 筆者が資格取得に取り組むときは,参考書と問題集を購入して,それらを一通り読むことから始める。最初は内容を理解できないことの方が多い。そうであっても,最初から最後まで一通り読むと,どこにどんなことが書かれていたのか,なんとなく頭の中に残る。

 これが頭の中にあると,いざ業務で関連知識が必要となったときに,「確かこの話題はあの本の,あのあたりに詳しく書いてあったはず」という当たりがつく。資格試験に取り組むことで,頭の中に「知識のインデックス」ができるわけだ。

 実際,後輩記者から「~について教えてほしいのですが」などと言われることがたまにある。そのときにズバリ答えられるとカッコいいのだが,そうはいかない場合も多い。だが,「確かこの本のこのあたりに詳しく書いあったから読んでごらん」と言えると,最低限のお役に立てた気持ちになる。

理論と実践が出会うと腑に落ちる

 いろいろな技術のしくみなどを勉強していると,いくら勉強してもわからない部分が出てくる。そんなときは,理論と実践の両面からアプローチすると理解が進むことがよくある。

 筆者が以前,テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験に向けた勉強をしていたとき,どの参考書を見ても暗号化のしくみ(IPsec)が理解できなかった。しばらくして,IPsec対応ルーターを操作する機会に恵まれた。実際に設定を入力したりその動作を見たりしていると,「この設定はあのとき勉強したアレか!」と頭の中で何かがつながった。それ以降は,暗号化のしくみをスイスイと理解できるようになったのである。

 理論で得た知識が実践で確認できたり,逆に,実践で得たスキルを理論で裏付けできると,「その知識は自分のモノになった」という実感がわいてくる。おそらく,試験勉強で得た机上の知識がなければ,ルーターを操作したときにこうした気付きはなかっただろう。資格試験の勉強は,「理論と実践」の片方である「理論」を育むのに役立つわけだ。

「段取り力」がつく

 情報処理技術者試験の高度試験は,年に1回しか受けられない。そのため,この年1回の大勝負に向けて,学習計画を立てる必要が出てくる。

 学習計画を立てるときは,合格するためにどれだけの学習量が必要か,その学習量をこなすにはどれくらいの日数が必要かなどを考える。また,途中で計画通りにいかなくなった場合,勉強時間を捻出するか,それとも勉強量を減らして目標を下げるかなど,そのときの自分の環境に合わせてそのつど決断する必要が出てくる。

 これは,ちょっとしたプロジェクト・マネジメントである。資格取得に取り組むことで,合格という目的を達するための「段取り力」が鍛えられるわけだ。ちなみに筆者はこれが苦手である。不合格を確信しながら受験直前に慌てて勉強することが多いのが悩みである。

勉強は長丁場,気持ちの持ちようも大切

 そのほか,資格取得を目指すブログや勉強会などを利用すると,勉強しながら仲間を作れるというメリットもあったりするだろう。どうせなら楽しくやりたいものである。

 とはいえ,試験前になると,合格できるかどうかの不安から「これまで勉強したことが無駄になるかもしれない」とか「こんなことをやっても意味がないかもしれない」などと弱気に考えてしまうこともある。合格すれば取り越し苦労ですむが,合否は「時の運」ということだってある。

 仮に合格できなかったとしても,挑んだ過程で経験したことは必ず身になる。そう思えば,日ごろの勉強も気が楽になるのではないだろうか。

 スキルアップ/キャリアアップを目指す読者を応援するselfupサイトでは現在,IPパスポート試験基本情報技術者試験CCNAORACLE MASTERなどの資格対策講座をお届けしている。「この機会に資格取得に挑戦してみようか?」と思った方は,ぜひ活用していただきたい。私も読者の皆さんと一緒に,合格を目指して頑張りたいと思っている。