IT業界は今、バブル崩壊、ITバブル崩壊に続く3度目の危機のさなかにある。しかも業界全体が“中年症候群”ともいえる状況にある。再生のためには、これからどういった針路を取るべきなのかを考えてみたい。

少しずつ時代に合わなくなる

 中年症候群というのは、この記事を執筆するためにいろいろ考えている間に思いついた造語である。IT業界、特に企業向けの情報システムを開発してきたITサービス業界で中核となっている企業の多くが、人間で言えば中年の域に達している。その過程で、いくつかの共通する課題を抱えるようになったことを表そうとしたものだ。

 筆者が考えるIT業界の企業での中年症候群は、例えばこんなものである。

 2008年度の業績は減収減益だったが、なんとか利益は確保した。しかし、例外の年はあるものの、長年にわたって売上高営業利益率の低下傾向が続いている。

 事業は受託開発が中心だ。顧客が思わずうなずくような提案力、独自開発したソリューションが重要だということは分かっているが、なかなか実践できない。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やクラウドコンピューティングという言葉に関心はあるが、自社のビジネスにどう関係させられるかは不明だ。Web関連のシステム開発の比率もそれほど高くはない。

 結局、長年にわたって取引のある大手企業からの受注が売り上げ全体の4分の1を超える。不況が深刻になるなかで、受注価格の引き下げを求められることが増えた。疲れた顔つきの営業担当者の姿が珍しくなくない。自分たちの利益を確保するため、協力会社への発注を減らすしかなくなっている。

 社員数は増えているが、全従業員の平均年齢は確実に高齢化している。これに伴って人件費が増加した。以前に比べると中途や新人の採用の手間が増しており、「不人気業界」だと自嘲する機会が増えている。その一方で、周囲を驚かすような個性的な人材が減っている。

 会社の設立から40年程度経つ。いまだに70歳を超えた創立時期を知るOBが、会社の方針について社長などの経営陣に強い影響力を持っている。現在に至るまで、10年以上にわたって同じ人物が経営トップを務めているかもしれない。

 いかがだろうか。「自分の企業にここが当てはまる」と感じた方も多いのではないだろうか。

実は多い40歳前後のSIer

 やや戯画的に表現してきたが、中年症候群は意外に多くのSIerに関係している。

 上場している大手SIerをはじめとして、設立から40年前後を迎えた企業が多い。筆者は日経ソリューションビジネスの編集長として、多くのSIerの社長にインタビューしている。その際に「設立40周年です」という言葉を、2009年に入ってから何度も耳にした。

 日本で最初に商用のコンピュータの利用が始まってから、今年で54年になる。裾野が広がるにつれ、急成長する産業の魅力を感じて、今でいうSIerが次々と誕生したわけだ。

 SIer最大手のNTTデータが、NTTデータ通信として独立した企業になったのは1988年である。だが、母体となったデータ通信本部が日本電信電話公社に設置されたのは42年前の1967年のことだ。野村総合研究所と合併した野村コンピュータシステムが、野村電子計算センターの名前で設立されたのは1966年である。

 その昔、「会社の寿命は30年」という言葉が流行したのをご記憶の読者もいらっしゃるだろう。この言葉が正しいとすれば、多くのSIerは企業としての最盛期を既に過ぎてしまったことになる。

 当時は時代の最先端だっただろうIT業界に可能性を感じて、一旗揚げようと飛び込んできた多くの若者も、今は年老いた。何だか分からないが面白味を感じさせていた企業も、いつのまにか伝統を意識するようになっている。

 顧客の要求に応えることを優先してきたため、創造的な商品を開発する力が弱い、激しい技術革新に社内の技術者の知識が追いつかないという問題は今も解決されていない。最近では、一般消費者を対象にしたネットサービスの企業に投資や優秀な人材を奪われるといった状況が顕在化するようになった。