記者が会社でかかわっているプロジェクトでは,あるネット企業の法人向けサービスを利用しています。このサービスの料金は,銀行の窓口で専用の払込用紙で支払う必要があります。専用の払込用紙が必要なので,ネット銀行で支払うわけにはいきません。結局,銀行の窓口まで出向き,個人で立て替えて支払い,銀行の窓口から渡される受領証を経理に提出して精算するのです。面倒なことこのうえなく,この会社の社長(取材で何度かお目にかかったことがあります)を大いにうらむと同時に,ネット企業がこんなことでよいのかと憤慨したものです。

 しばらくして,今度は個人で利用しているサービスの請求書とともに振り込み用紙が送られてきました。そして,開封してみて,またまた憤慨することとなりました。支払い方法が,「コンビニ払い」限定だったのです。相手企業の銀行口座番号など,どこにも書いてありません。

 銀行口座への支払いなら,ネット経由でできますが,コンビニ払いとなれば,わざわざ出かけなければなりません。さっそく,先方に電話して銀行払いの請求書はないのか?」と聞くと,電話に出た担当者氏は「コンビニ払いなら店も多いし24時間利用できますよ」と,この人(記者のこと)は,なぜわざわざ面倒な銀行払いを要求するのかとけげんそうな声で説明してくれました。24時間どこにいても,利用できるネット銀行のほうが便利なことは,ITproの読者の方ならお分かりのことでしょう。

 思い返せば,コンビニ払いが台頭してきたのは,銀行振り込みが不便だったからにほかなりません。ネットのおかげで,それがいつの間にか逆転していたのかと,感心しつつも,銀行振り込み用の請求書を送ってくれるように伝えました。そして,自宅にいながらにして支払いを完了しました。

 ここで,ふと「なぜ自分はコンビニ払いではなく銀行振り込みにこだわったのか?」と自問してみました。もちろん,その答えはコンビニに出かけるのが面倒だったからにほかならないのですが,何を隠そう,記者の自宅の2軒隣は,某大手コンビニの店舗なのです。電話して請求書を取り寄せて,パソコンで口座番号などを打ち込んでいる時間があれば,コンビニに出かけて窓口に払込書を差し出してきたほうが早かったかもしれません。ネットの利便性に慣れきってしまい,2軒隣に出かけることさえ面倒な体質になっていたのです。

 そういえば,ほかにも,ネットというかITに慣れきったため,失敗してしまったことがありました。先日,ある地方都市に出かけた際,駅で乗車券を購入すべく自動販売機に硬貨を投入しようとして「いくらの切符を買うんだったっけ?」と戸惑ってしまいました。何のことはない,事前に料金表で目的地までの金額を確認していなかったのです。ICカード乗車券ばかり利用していたため,切符の買い方を忘れてしまっていたようです。

 PCでしか文章を書かなくなったので漢字が書けなくなる,電卓ばかり使っているので,暗算や筆算の能力が落ちている,などと思っている人は多いでしょう。記者もそうです。そして,ますますネットやITにどっぷりと染まったことで,わずか2軒隣に出かけるのも面倒になる,切符の購入の仕方といった社会生活の基本を忘れる,とかなりダメ人間化が進行してしまったようです。

 ここで,冒頭で紹介した専用振り込み用紙しか利用できないネット企業のことを思い出しました。あえてネット銀行での振り込みができなくなっているのは,「ぐうたらしていないで銀行まで出かけなさい,たまには振り込み用紙を使って銀行での手続き方法を再確認しなさい」との戒めだったのかもしれません。

■変更履歴
本文の第5段落で,「記者の自宅の2件隣」としていましたが,「記者の自宅の2軒隣」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/07/07 13:54]