「ホテルの客室に電話が付いていない。なぜ?」

 皆さんは、ご存じであろうか。客室に電話が無いビジネスホテルがあることを。スーパーホテル(大阪市西区)というビジネスホテルチェーンの客室には、電話が無い(昔に建てたホテルは除く)。

 客室の電話を無くした理由について、創業者の山本梁介会長はこう説明する。
 
 「客室に電話があると、チェックアウト時に使用料をめぐってトラブルがよく起き、そのたびに支配人に負担をかけていました。フロントでトラブル処理に当たっている間に、チェックアウトに訪れたほかのお客さんを待たせてしまうという問題も発生していました。そうした負担や問題を解消するために電話を無くしました。その結果、大きなコストダウンにつながりました」

 詳しく解説しよう。電話が客室にあると、当然ながらお客さんが利用すると使用料が発生。チェックアウト時に精算する必要が出てくる。それだけでなく、電話使用料の請求をめぐって「使った」「使わない」、「そんなに使った覚えはない」「あまりに高過ぎる」といったやり取りがお客さんとの間で繰り返される。こうしたやり取りはホテルの従業員にとって大きな負担だった。電話が無くなることで、使用料の請求作業やトラブル処理が一切無くなり、コスト削減につながったわけだ。

 もちろん背景には、携帯電話の普及によって客室の電話利用が少なくなっていることもあるだろう。しかし大抵は「客室に固定電話があるのは当たり前」という常識が働いて、なかなか電話を無くすことができない。スーパーホテルの「徹底ぶり」には感心する。

ITを駆使して徹底的にコスト削減

 電話に限らず、スーパーホテルはIT(情報技術)を駆使して、徹底してコスト削減に取り組んでいる。例えば、ビジネス・モデル特許を取得した独自の自動チェックイン・チェックアウト・システムの導入。これによってフロントにおける人手によるチェックイン・チェックアウトは不要になり、人件費の削減につながった。

 お客さんにとっては、わざわざフロントに寄らずにホテルを後にできる利便性がある。鍵は無く、暗証番号をテンキーに入力してドアを開ける。ホテルにとっても重要だが負担のかかる処理に人手をかける必要がないので、大幅な人件費のカットになる。

 さらに、夜間のフロントを無人化し、夜間フロント・センター(全国で1カ所)で宿泊客からの問い合わせに対応して人件費を削減した。遠隔での監視システムを導入し、問題があればホテルに泊まっている従業員が対応する仕組みにしている。人手をかけずに安全・安心の実現に向けてITを駆使しているというわけだ。

浮いたコストは、快適な眠りを提供するために投資

 浮いたコストを温泉付きの大浴場や防音効果の高い壁、良質で大きな客室ベッドといったハードウエアにつぎ込んだり、お客さんが熟睡できるように睡眠の研究を大阪府立大学と取り組んだりしている。硬い枕や柔らかい枕、そば殻の枕など、自動チェックインの後に、自分に合った枕を選べるようにしている。

 ホテル滞在時間の中で最も長く過ごすベッド、すなわち快適な眠りを提供することに集中し、それ以外はメニューから外すというメリハリのある施策を徹底させている。もしも安眠できない場合は、宿泊料を返金するという徹底ぶりだ。リーズナブルな料金でシティーホテル並みの睡眠環境を提供した結果、約90%の客室稼働率と約70%のリピーター率を実現するなど、ビジネスホテルとしては群を抜いている。

「ブルーオーシャン戦略」の成功事例

 スーパーホテルは、まさに「ブルーオーシャン戦略」の成功事例といえるだろう。ブルーオーシャン戦略には、既存サービスを見直し、無駄なものを徹底的に削り、本当に必要なものだけを残し、しかもリーズナブルな料金で提供するというものがある。例えば、みなさんもよく知っている「10分間・1000円」で散髪してくれる「QBハウス」がそうだ。

 QBハウスは、理髪サービスを、「髪をカットすること」だけに絞り込んだ。髭を剃ったり、髪の毛を洗ったりするサービスを取り除いた。その結果、水回りが不要になり、設備投資を大幅に減らせた。洗髪やひげ剃りが無くなったので時間短縮にもつながり、「10分間・1000円」の理髪サービスを実現できた。洗髪をしないので散髪によって発生した細かい毛を吸いこむ強力な吸引機をはじめ、サービスの質を落とさないための工夫が随所に見られ、スーパーホテルの取り組みに相通ずるものがある。

 なお、スーパーホテル・山本会長のインタビューは6月30日に「経営とIT新潮流」サイトの「トップインタビュー 大淘汰時代を勝ち抜く」で公開する予定だ。