この春,ケーブルテレビ業界を震撼させる事態が発覚した。九州地区のある有力ケーブルテレビ事業者が,番組供給事業者に対して加入者数の過少申告を続けてきたのではないかという疑惑が持ち上がったのである。

 一般に,ケーブルテレビが提供する多チャンネル放送サービスの番組は番組供給事業者から調達している。その代金は,ケーブルテレビの加入世帯数をベースに,契約に基づいてケーブルテレビ事業者から番組供給事業者に支払われている。ベースとなる加入世帯数の申告の数字が実数と異なるという事実に,番組供給事業者の多くは激怒した。

 当該ケーブルテレビ事業者は,日経ニューメディアの取材に対して,「数が少ないのは未収納者をカウントからはずした結果。未収納分は利益として計上しているわけではなく,その分を番組供給事業者に支払う必要はないと判断した」といい,意図的な不正ではないかとの指摘は強く否定した。

 ところが,同社は最終的に,過去にさかのぼって差額を支払う意向を業界に対して示した。事実上,非を認めた形である。

加入世帯数は自己申告に頼るしかない

 ケーブルテレビ事業者による過少申告疑惑が明らかになったのは,今回が初めてではない。数年前にも,数件発覚している。それに続く今回の事態に,番組供給事業者側はケーブルテレビ事業者に対して一層不信感を募らせている。

 番組供給事業者の関係者によると「そもそも加入世帯数は,ケーブルテレビ事業者による自己申告に頼るしかない」という状況である。今回も,疑惑が発覚したキッカケは,内部告発に基づく地元紙の報道だった。この内部告発がなければ,番組供給事業者は実態を知りようもなかったのである。

 それだけに,「他にも同様のケースがあるのではないか」「氷山の一角ではないか」という不信感が消えない。「この業界のコンプライアンス(法令順守)に対する取り組みはどうなっているのか」という嘆きの声が聞こえてくる。

 本来,ケーブルテレビ事業者と番組供給事業者は,多チャンネル・サービス推進の両輪として,協力しあう関係でなければならないはずだ。一方で,ケーブルテレビ業界側も番組供給事業者に対していろいろ主張したいこともあるだろう。

 同じような事態が今後も続くようならば,両事業者同士の信頼関係にヒビが入りかねない。一部の事業者に業界全体が振り回されないようにするためにも,今回の一件を機にケーブルテレビ業界を挙げて一気に正常化に取り組むべきだろう。

 例えば,業界団体あるいは有志により自主的に発足させた組織が,各事業者における加入者数報告の状況を調べて,業界に明らかにする,といった取り組みが考えられると思う。