情報処理技術者試験が,2009年春から新試験制度に変わった。新試験で試験区分が大きく変わったが,最も大きな変更点は「ITパスポート試験」が新設されたことだろう。

 IPA(情報処理推進機構)のITパスポート試験紹介サイトによれば,ITパスポート試験とは「職業人が共通に備えておきたいITに関する基礎知識を測る国家試験」である。「基本情報技術者試験」よりも下位に位置する,情報処理技術者試験の中では最もやさしい試験だ。

 情報処理技術者試験はここ数年,応募者が年々減少していた。ITパスポート試験は,これを食い止める「切り札」として登場した。狙い通り,2009年春の試験の応募者は,7年ぶりに増加となった(関連記事)。

 2009年4月に実施した1回めのITパスポート試験の応募者数は4万6845人。受験者数は3万9131人で,合格率は72.9%だった。IPAによれば,若年層の応募割合が高く,23歳以下の応募者が約4割を占めていたという。最も応募者が多かった年齢は17歳(4091人)。高校生と大学生が,応募者のかなりの割合を占めていたわけだ。情報処理技術者試験としては,これまでとは全く異なる年齢層の受験者を獲得できたことになる。

 こうして見ると,ITパスポート試験は新しい試験区分として大成功のようだ。では,その内容とレベルはどうなのか。これを知る手っ取り早い方法は,実際に試験を受けてみることである。とはいえ,春の試験は既に終了している。そこで,IPAのサイトに掲載されている過去問題を,時間を測って実際に解いてみることにした。

 試験勉強は,一切しなかった。卒業した大学の学部はコンピュータとは関係ないが,入社後はずっとコンピュータ系の雑誌やWebサイトの編集部に所属しているので,ITに関する“広くて浅い”知識はある。一応,基本情報技術者試験にも受かっている。このため「勉強しなくても,なんとかなるだろう」と考えたのだ。

利用者・管理者・発注者に必要な知識が混在

 ITパスポート試験の問題は全部で100問ある。解くのに要したのは2時間30分(実際の試験時間は2時間45分)。結果は,100問中不正解が7問の,93点だった。

 実際に解いてみた印象は,「ITに関する常識」が幅広く出題されている,というものだ。経営やIT関連法律,システム用語,マーケティング,プロジェクトマネジメント,運用,テクノロジ,セキュリティといった分野を,まんべんなくカバーしている。これだけ幅広い知識があれば,ITのプロでなくても,コンピュータ系の総合雑誌を読みこなせるだろう。

 もっとも,ITの利用者に必要な知識,ITの管理者に必要な知識,それにITの発注者に必要な知識が,一つの試験に詰め込まれていることに,多少の違和感を感じた。ITパスポート試験はIT管理者向けの「初級システムアドミニストレータ試験」の後継でもあるので,IT管理者にかかわる問題が含まれているのは当然かもしれない。

 例えば,「ファンクションポイント法」「ブラックボックステスト」「プログラムテスト」に関する知識は,システム開発を発注する当事者は知っておいた方がいいだろうが,ITの利用者である一般の職業人にはあまり必要ないだろう。恐らく,すべての職業人はシステム発注の知識が必要という前提に立っているのだと思われる。

 ITパスポート試験は,ITエンジニアにとっても「ITに関する常識テスト」として,受けてみる価値はあると思う。ITパスポート試験で要求される知識は,ITエンジニアにとってはまさに「常識」と言えるようなものだからだ。不正解となった問題について勉強すれば,自分の弱点の克服にもつながる。年2回しかない試験を受験しなくても,筆者のように過去問題を解いてみるだけでも効果はある。

 スキルアップとキャリアアップを目指したいITパーソンのためのWebサイト「selfup」では近々,このITパスポート試験の過去問題を解説する連載記事をスタートする予定である。ITエンジニアは自分の常識を確認するために,学生の皆さんは必要最低限のIT関連知識を身に付けるために,ぜひ活用していただきたい。