「うちの社長の話を鵜呑みにして記事を書いていましたね。あれは現場を知らない理想論ですよ」。こういう発言を聞くことが時折あるが、そのたびに不愉快になる。

 筆者が書いたインタビュー記事の中で、同様の批判を頂いた最近の例として、IT大手企業4社のトップインタビューがあった。富士通、NEC、日立製作所、NTTデータの社長ないし代表取締役に今後の方針を伺い、日経コンピュータ誌の編集長インタビュー記事としてまとめたものだ(同インタビューのロングバーションを順次公開中。「制度や仕組みをグローバル化すれば、自ずと人も企業も変わる~富士通・野副社長」「若い時にプログラムを書こう,必ず人生の豊かさにつながる~NTTデータ・山下社長」)。

 さすがにこれら4社の社員の方で、面と向かって筆者に冒頭のような批判を言ってきた人は今のところいない。ただ、4社の社員が顧客や同業他社の知り合いに、冒頭の批判に近いことを言ってしまい、その顧客や同業他社の知り合いが筆者と面識があったりすると、結局、筆者のところにまで批判が届いてしまう。また、4社の社員ではないものの、これら4社の近くで仕事をしているIT企業の社員の中にも、「現場の実態を一体どう考えているのか」といった感想を持った人がいた。こちらについては直接、ご意見を頂いた例がある。

 大手4社トップのインタビュー記事を読んだ社員あるいは関係者の中から、文句を言う方が出たのはなぜか。一つの理由は、筆者の書いたインタビュー記事が経営トップの発言をほぼそのまま紹介していたことだろう。つまり、「突っ込みが足りない」と思われたわけだ。取材中に飛び出した数々の発言のうち、特に気合いが入っていると感じた部分を選んで日経コンピュータに掲載したため、「その話ではなく、もっと聞くことがあるはず」と思われた社員や関係者もいたのではないか。

Good Newsを募集しています

 インタビューの冒頭、「日経コンピュータは今年、Good Newsをお届けします、という編集方針を採っています。元気が出る話を思い切りして下さい」と頼んだ。依頼を受けた4社のトップは実によく話して下さり、こちらがあれこれ聞く時間はあまり無かった。ただ、時間が十分あったとしても、「仰っている施策はうまくいかないのでは」としつこく聞く気は無かった。前向きな話、威勢の良い話をしてほしい、と依頼しておいて、すぐさま「それは無理でしょう」と聞くのは筋が通らないからだ。

 今年から日経コンピュータ編集長という管理職になってしまい、取材の機会は昨年と比べて激減したものの、「Good News募集」という姿勢はすべてのインタビューで踏襲している。つい先日、たまたま来日した米国IT企業の経営トップにインタビューする機会があり、上記の方針で話を伺ったところ、最後に「君のインタビュースタイルはとてもポジティブでユニークだ。シニカルかつトリッキーな質問をするアメリカのジャーナリストたちとは大違いだ」と言われてしまった。

 これを褒められた、と受け取るかどうかであるが、臆面も無く書くと、筆者は褒められたと思っている。読者の中には、「経営トップの御用聞きのようなことをして、ジャーナリストの風上にも置けない」と立腹される方もおられよう。それは誤解だが、とにかくこれが今年の筆者の、つまり日経コンピュータの編集方針である。

 こういうことを言い続けているので、編集部の一部記者から「編集長に就任してから取材先に妙に甘くなっていませんか。去年と比べ人が変わったようです」と言われてしまった。態度が豹変しているのは事実で、先の米国IT企業トップに「本来の私はポジティブではない。昨年末までは一介の記者だったので、非常にシニカルかつトリッキーであった」と応じたほどだ。

 なぜ方針を変えたのか。「管理職になったから」というのはつまらない冗談で、真意はこうである。ネガティブな話、調子の悪い話は今時、ニュースとは言えない。景気回復のための最重要事は、人々が前向きな気持ちになること。従って、多少乱暴であっても無理があっても、「こうしたい」「こう変える」といった前向きな発言こそがニュースであり、それを伝えていきたい。これがGood News募集ということである。