10年以上メインフレーム・オルタナティブ(MFA)を唱え続けてきた日本ヒューレット・パッカード(HP)が最近,新施策を披露した。ベンダーからレガシー・マイグレーション関連の発表があるのは久しぶりのことだ。2003年頃,HPやサン・マイクロシステムズ,SIer各社などから発表が相次いだが,それ以来だろうか。MFAという言葉も忘れていたほどだ。
HPはこれまで,メインフレーム資産の移行先として,概ねHP-UXやWindowsサーバーを提案してきた。だが今後は,これまであまりメジャーな選択肢ではかったフォールト・トレラント機「HP NonStopサーバー」を,新たな受け皿として推すという。
日本はメインフレームの「聖域」と言われる。減少が続いているとは言え,まだ,売り上げシェアにして世界平均の2倍ほどのメインフレームが稼働しているという。
過去数回のレガシー・マイグレーション・ブームに耐え,今もメインフレームで稼働しているのは,相当ミッション・クリティカルなアプリケーションのはずである。HPにとっては,トンネルを順調に掘っていたら堅い岩盤が出てきたような状況だろう。しかし,期待できる収穫が大きいことも確かだ。
今回発表したNonStopサーバーへの移行ソリューションの肝は,メインフレームのCOBOLアプリケーションを,NonStopサーバーのCOBOL(NonStop COBOL)アプリケーションに変換するサービスである。ここは,HP自身ではなく,パートナーの1社であり,15年来レガシー・マイグレーション・サービスを提供してきた東京システムハウス(TSH)が担当する。
この変換サービスはMMSと呼ばれるもので,TSH独自の変換ツールを使ってできるだけ工数をかけずに実施する。このツールはこれまで,MicroFocusCOBOLへの変換だけに対応してきたが,今回の協業に先立ち,NonStop COBOLへの変換も可能にした。
なぜこのタイミング?
HPで今回の話が持ち上がったのは,2008年秋口のことだという。それまでマーケティングなどの啓蒙活動に終始していたMFAへの取り組みを見直し,専門の営業組織「MFA営業部」を新設,直接顧客に働きかけ始めた。
それにしても,なぜ腰を上げるのが今なのだろう。HPは今回の施策のトリガーが,「コスト削減ニーズの急激な高まり」であると説明した。「今やIT部門は,2割,3割…といった大幅なコスト削減を要求されている。これだけ減らすにはメインフレームを撤廃するしかない」(エンタープライズストレージ・サーバ営業統括本部 MFA営業部の北元智史部長)という。
もう一つ,影響していそうなのが,隣国の韓国で急速にメインフレームからの移行が進んでいることだ。「韓国内に残るメインフレームはわずか50台」などとする説もあるほどで,「日本を何とかしろ!」という特命が下ったとしても不思議はない。
新たな切り札として登場したNonStopサーバーは,クレジット・カードの与信確認など,ミッション・クリティカルなシステムでの実績も多い。だがNonStopサーバーは,それ自体が比較的高価なマシンである上,独自の機能が多いため,移行時にも手作業が多くなる。広く提案できる選択肢ではなかった。
TSHとの協業により,従来よりも変換作業を大幅に省力化できるとしても,NonStopサーバーへの移行はかなり高級路線であることに変わりはない。実際のコスト削減幅がどの程度になるのかは,もう少し様子を見る必要がある。
TSHが対応するレガシー・マイグレーション案件はここ1年で増加しており,過去最多という。ただし内容は二極化している。コスト削減目的の大型案件が増える一方で,2000年頃に導入した小型メインフレームなどのユーザーが,保守部品切れを理由に移行を迫られるといったケースも増えている。
TSHの清水真 パッケージソリューション事業部 マイグレーションコンサルティング部 営業企画課長によれば,後者のようなケースでは「移行先はまず,Windowsサーバーになる。ユーザーができる限りの作業を担当するなどして,コストを極限まで抑える」のだそうだ。
かつてなく強いコスト削減ニーズを追い風に,他のハード・ベンダーもレガシー・マイグレーション提案を強化してくるだろうか。IBMを始めとするメインフレーマの動きが気になるところだ。
当初,COBOLアプリケーションの変換サービス名を「MML」としていましたが,正しくは「MMS」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/10/06 20:00]