総務省は2009年6月5日、「ICTビジョン懇談会報告書-スマート・ユビキタスネット社会実現戦略-」を公表した(資料はこちら)。ICTビジョン懇談会は総務相の私的研究会で、2011年から2015年ごろまでを展望し、ユビキタスネットワーク社会を発展させるための政策ビジョンを検討することが目的だ。

 今回の報告書において、電子政府・電子自治体関連では、行政サービスの利便性を向上させるために、中央省庁間および自治体が連携して「ワンストップ・サービス」を推進する方針が示された。具体的には、次の3つに取り組むという。

  • インターネット経由でワンストップの行政サービスを受けることができ、年金記録等の情報を入手・管理できる「国民電子私書箱(仮称)」の実現(2015年まで)
  • 各行政機関の情報システム間連携や機器の統合化・集約化を図る「霞が関クラウド」「自治体クラウド」及び「共通企業コード」の構築
  • 内閣官房に関係府省からなる連絡会議の設置、国民電子私書箱の実現に向けた基本構想の取りまとめ(09年度末目途)

 5月29日に成立した補正予算でも、電子私書箱構想の推進(30億円)、クラウド・ネットワーク技術の研究開発等(156億3000万円)など、「電子政府・電子自治体の加速」という名目で合計297億3000万円が計上されており、実際に研究・開発・実装が進みそうだ(詳しくは、総務省の「平成21年度総務省所管補正予算 (案)の概要」を参照)。

 一連の施策の骨子は、省庁・自治体ごと、さらには住民サービス単位にバラバラに利用している情報を連携させて、1つの窓口で複数のサービスを提供することである。例えば、住居を引っ越した場合、現状では最大26手続きが必要になり、7機関を訪問することになる。引っ越しに限らず、結婚や退職など様々なライフイベントの手続きを単一の窓口で処理できるように、ワンストップ・サービス化することが究極のゴールである。一方、IT面では、仮想化技術を利用して、いくつかのデータセンターに中央省庁や自治体のシステムを集約することを目指している。

 電子政府・電子自治体に限ったことではないが、複数のアプリケーション・システムを連携する場合、必ず課題となるのがコード体系の標準化である。複数のシステムにまたがった情報をひも付けるためには、マスターとなるコードを標準化することが欠かせないのである。例えば、製造業では、調達や生産管理、在庫管理などのシステムを企業グループ単位で再構築する際に、部品表(BOM)の共通化(部品のコード体系の標準化)が大きな課題となっていた。

 電子政府・電子自治体では、利用者、すなわち個人や企業のコード体系の標準化が必要になる。ICTビジョン懇談会の報告書では、参考資料「重点戦略実現に向けた具体的施策例」のなかで、電子政府の項目で「データ連携に不可欠なIDの在り方について検討し、企業コード体系の共通化等を推進する」と言及している。総務省の補正予算でも、30億円投じる「電子私書箱構想の推進」のなかに「共通企業コードセンターの構築」という記述が見られる。

 企業コードについては、証券コードや帝国データバンクの企業コードなど既存の体系があるので、一見、標準化は容易なように思えるが、実はそうではない。欧米の先進国に比べて、日本には中小・零細・個人企業が数多く存在する。街中の個人商店までも含めると、標準化には膨大な作業が必要になるだろう。