「仮想化技術を導入した企業の多くは,コストやリソースの節約を実現できていない」---。Interop Las Vegas 2009(5月17~21日に米国で開催)に来場した120人のネットワーク・エンジニア,ITマネージャ,IT部門幹部に対するアンケートで,このような結果が得られたという(関連記事)。この調査結果を見て,筆者は軽い驚きをおぼえた。
調査では回答者の55%が,仮想化技術の導入により「望ましい効果よりも面倒な問題の方が多くなった」と述べた。ニュースリリースを見る限り,ここでいう望ましい効果とは主に「コストやリソースの節約」を意味するようだ。
新しい技術が定着して成果を上げるには,それなりの時間を要するのが普通である。調査結果は,この点を差し引いても仮想化を検討中の企業が尻込みしてしまいかねない内容といえる。
Interopの来場者が対象なので,「ネットワーク仮想化」の話ではないかとも疑った。しかし調査結果を読む限り,サーバー仮想化に関するものである。Interopそのものも基幹系システムやサーバー仮想化製品などの出展が増えているようだ。優れた新製品を表彰する「Best of Interop」のグランプリにも,米VMwareのサーバー仮想化ソフト「VMware vSphere 4」が選ばれていたりする。綿密な調査ではなさそうだが,米国におけるサーバー仮想化の実情がうかがえる。
一方で,「仮想化技術によって得られる利点はほかの問題をおぎなって余りある」とする回答も45%あった。否定的な見方がやや多いものの,仮想化技術に対する評価は真っ二つに割れているのである。
対岸の火事とはいえない
日本ではどうか。いままで見聞きした話を振り返ると,今回の調査結果に当てはまる部分も少なくない。
これまでに取材した仮想化技術の導入企業やシステム・インテグレータの多くは,こう話していた。「仮想化は,技術的にはそれほど難しくはない。多少の例外はあるが,思ったより簡単に仮想化環境に移行できた」と。
ところが,仮想化の導入効果に関しては「単純なコスト削減だけを目的とすべきでない」と付け加える企業が少なからずあった。必要リソースのプロビジョニングが容易になる,新規のサーバー環境を迅速に用意できる,といった点を含めて評価すべきというのである。
こうした発言は,「期待ほどコストやリソースの節約を実現できていないからではないか」と勘繰ることもできる。もしかしたら日本でも,米国と似たような状況になっているかもしれない。
仮想化により増えるコストがある
仮想化技術を導入する企業はどこも,計画段階でハードウエアやソフトウエアに関する投資効果を計算しているはず。なのに,期待ほど効果が得られないのは,なぜだろうか。「コストやリソースの節約を実現できていない」というのであれば,ハードウエアのサイジングを誤ったか,運用段階で「面倒な問題が多くなった」などの理由が考えられる。
前述のアンケート結果には「面倒な問題」についての具体的な説明はないが,仮想化ならではの検討課題はいろいろある。例えば,サーバー統合により1台の物理サーバー上で複数の仮想マシンを動かすと,サーバー・リソースの利用率を高めることができる。その半面,リソースの利用率の推移を以前より注意深く監視しなければならなくなる。
トラブルシューティングやソフトウエア・ベンダーのサポートにも課題がある。仮想化レイヤーが増えることで,障害発生時の原因特定が困難になる。ミドルウエアやアプリケーション・ソフトのベンダーがサポートを渋るケースもあるという。
「計画」が肝心
こうした課題は残っているものの,仮想化事例が増え,現場の試行錯誤を経たことで「未知の問題」や「予想外の問題」は着実に減っている。仮想化により増える運用管理の負担やコストは十分に見通せるようになってきた。
肝心なのは,予想されるコスト増を上回るように,仮想化のメリットをしっかりと引き出すことだろう。「仮想化技術によって得られる利点はほかの問題をおぎなって余りある」と考えている企業は,この点を十分に理解し,工夫しているのだと思う。「仮想化は,単純なコスト削減だけを目的とすべきでない」と話す日本の企業は,仮想化の効果に自信がないというより,メリットの引き出しに苦心していたということだろう。
仮想化を手掛けるシステム・インテグレータが繰り返し指摘している話だが,重要なのは「計画」である。技術的に仮想化できたからといって,メリットを十分に引き出せるとは限らない。計画段階でメリットを十分見極めたかどうかで,導入後の仮想化技術に対する評価が違ってくる。Interopでのアンケート結果で仮想化技術への評価が真っ二つに割れたのは,計画を十分に進めたかの違いにあるのではないか。